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第8章-3
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「で、なんで大澤先輩が来てるんですか?」
待ち合わせ場所の大型書店に現れたのは大澤だった。年末の街はなんだか気忙しく、冬休みになっていることもあって人が多かった。
「綾乃、おととい出したレポート再提出で無理になってさ。きょうの夕方まで待ってもらえるそうだから、今ごろ図書館で必死だろ。俺は伝書鳩じゃないんだけどな」
そう言いながらも笑っている。
今朝まで必死にがんばったけど間に合わなかった、祐樹くんごめんねって謝ってたと聞けばそれ以上文句をつける気にはなれない。
「祐樹、腹減ってない? 俺、寝坊して時間なくて朝も昼も食べてないから、なんか食いたいんだよな。つき合えよ」
「はい」
大澤はそっけない返事を気にすることもない。昼にはおそすぎる2時半という時間だが、大澤はしっかり食べたいようだ。
「祐樹は腹減ってる? なにが食べたいかんじ? おごってやるよ」
「じゃあ…天丼がいいです」
「お、いいね」
祐樹が選んだのはカウンターだけの天丼専門店だ。
安くて早くてボリュームがある。食券を買って並んでカウンターに座った。水はセルフだ。男同士だとこういうところが楽だよな、と思う。
綾乃がいたら、さすがにこういう店は選べない。ほんとはこういう丼ものとかカレーとかがっつりした食べ物が好きだけれど、デートのときはカフェでランチとかイタリアンを分け合ったりだった。
「綾乃さんはなんで先輩に伝言したんですか? 電話でいいのに」
大型書店を待ち合わせ場所にしているのは、ナンパ除けのほかに急な変更のとき店に電話をかけて呼び出しができるからだった。(注:この話は80年代の話で携帯電話は存在しません)
「あー、きょう今年最後のサークルのミーティングがあって、クラブハウスでたまたま会ったからだろ。ちょうど本屋に用事もあったし」
上エビ天丼をおそろしい速さでかきこんでもりもりと食べ、ごくごくと水を飲んでいる元王子は、それでもやはりかっこよかった。
気づけば大澤の水を飲む喉元に目が引き寄せられていて、祐樹ははっと目線をそらした。なんだか心臓がとくとくする気がして、なにかしゃべろうと話題を探して頭のなかをあちこちめぐる。
「あ、そういえば、すこし前、本多先輩に会いましたよ」
「へえ、本多、懐かしいな。あいつ、元気にしてた?」
「はい。連絡とってないんですか?」
「んー、この半年くらい会ってないかもな。どこで会ったんだ?」
「ショッピングセンターで買い物してるときに声かけられて」
祐樹はかいつまんで本多との会話、というか誤解を教えた。聞いた大澤は目を丸くして、それから「バカだな、あいつ」と爆笑した。
その反応を見て、ほらやっぱり誤解だったと祐樹も一緒に笑った。けれども、ほんの少しがっかりしているじぶんを見つけて、祐樹はそんなじぶんに違和感を覚える。
どうして、なににがっかりしているんだろう?
じぶんの気持ちなのに、もやもやとした霧がかかっているようにはっきりつかめなくて、祐樹はもどかしく思う。
いったい何に引っかかっているんだろう。最近、こういうことが多い。
待ち合わせ場所の大型書店に現れたのは大澤だった。年末の街はなんだか気忙しく、冬休みになっていることもあって人が多かった。
「綾乃、おととい出したレポート再提出で無理になってさ。きょうの夕方まで待ってもらえるそうだから、今ごろ図書館で必死だろ。俺は伝書鳩じゃないんだけどな」
そう言いながらも笑っている。
今朝まで必死にがんばったけど間に合わなかった、祐樹くんごめんねって謝ってたと聞けばそれ以上文句をつける気にはなれない。
「祐樹、腹減ってない? 俺、寝坊して時間なくて朝も昼も食べてないから、なんか食いたいんだよな。つき合えよ」
「はい」
大澤はそっけない返事を気にすることもない。昼にはおそすぎる2時半という時間だが、大澤はしっかり食べたいようだ。
「祐樹は腹減ってる? なにが食べたいかんじ? おごってやるよ」
「じゃあ…天丼がいいです」
「お、いいね」
祐樹が選んだのはカウンターだけの天丼専門店だ。
安くて早くてボリュームがある。食券を買って並んでカウンターに座った。水はセルフだ。男同士だとこういうところが楽だよな、と思う。
綾乃がいたら、さすがにこういう店は選べない。ほんとはこういう丼ものとかカレーとかがっつりした食べ物が好きだけれど、デートのときはカフェでランチとかイタリアンを分け合ったりだった。
「綾乃さんはなんで先輩に伝言したんですか? 電話でいいのに」
大型書店を待ち合わせ場所にしているのは、ナンパ除けのほかに急な変更のとき店に電話をかけて呼び出しができるからだった。(注:この話は80年代の話で携帯電話は存在しません)
「あー、きょう今年最後のサークルのミーティングがあって、クラブハウスでたまたま会ったからだろ。ちょうど本屋に用事もあったし」
上エビ天丼をおそろしい速さでかきこんでもりもりと食べ、ごくごくと水を飲んでいる元王子は、それでもやはりかっこよかった。
気づけば大澤の水を飲む喉元に目が引き寄せられていて、祐樹ははっと目線をそらした。なんだか心臓がとくとくする気がして、なにかしゃべろうと話題を探して頭のなかをあちこちめぐる。
「あ、そういえば、すこし前、本多先輩に会いましたよ」
「へえ、本多、懐かしいな。あいつ、元気にしてた?」
「はい。連絡とってないんですか?」
「んー、この半年くらい会ってないかもな。どこで会ったんだ?」
「ショッピングセンターで買い物してるときに声かけられて」
祐樹はかいつまんで本多との会話、というか誤解を教えた。聞いた大澤は目を丸くして、それから「バカだな、あいつ」と爆笑した。
その反応を見て、ほらやっぱり誤解だったと祐樹も一緒に笑った。けれども、ほんの少しがっかりしているじぶんを見つけて、祐樹はそんなじぶんに違和感を覚える。
どうして、なににがっかりしているんだろう?
じぶんの気持ちなのに、もやもやとした霧がかかっているようにはっきりつかめなくて、祐樹はもどかしく思う。
いったい何に引っかかっているんだろう。最近、こういうことが多い。
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