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第8章-2

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 河野はつき合っている彼女としょっちゅうぶつかるらしく、少なくとも週に1度はあいつ信じらんねー、と小さなケンカをしている。
「なにをそんなにもめるの?」
「わっかんねー。向こうが勝手に怒ってんだよ」
「…それ、どうやって解決するの?」
「んー、とりあえず謝る?」
「なにが悪いかもわからないのに?」
「でも黙ってるとますます機嫌悪くなるからさ」
「それで許してくれる?」
「なんかまあ、謝ってるうちに収まることもあるし、文句言われることもあるし、あとはちょっとしたお菓子買って行ったりとか」
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「お菓子? 菓子折り?」
 菓子折り持って彼女に平謝りする河野を想像して祐樹がへんな顔をすると、河野があきれ返った。
「ばか、なんで彼女相手に菓子折りなんだよ。ちょっとだけ高いチョコとかクッキーとか、コンビニとかで買えるようなやつだってば」
「へえ…そうなんだ」
「そうなんだって…。祐樹はケンカしねーの? そういや聞いたことないな、ケンカしたとかもめたとか」
「うーん、そんな言うほどのケンカはしたことないかなあ」
 言うほどのケンカどころか、言い争いレベルもないかもしれない。祐樹はどちらかというと気が強くて負けず嫌いだし、学校のなかではかなり言い争いもするほうだ。
 男子校なのでからかいあいが殴り合いに近いことになるときもあるが、それも怯まないし実は空手を8年もやっていたおかげでけっこう強い。

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菓子折り!
 クラスのなかではのびのび言いたい放題なのを知っている河野は、ははあと目を眇めた。
「祐樹、彼女のまえでは猫かぶってんだろ」
「そうかな。そんなことないと思うけど」
「ちゃんと言いたいこと言えてる?」
「言いたいことって?」
「…やらせて、とか?」
「さいてー」
 祐樹が顔をしかめると、河野ははいはい俺はさいてーですよ、と明るく返した。なにを言っても今はむだだろう。河野の浮かれ具合を祐樹はほほえましく思う。
 23日のクリスマスデートで彼女と念願の初体験を済ませた河野は、なにかと祐樹の世話を焼きたがるのだ。今までもそうだったが、きょうはとくにエッチ関係の方面に発言が偏っている気がする。
 きょうが終業式でよかったと心底思う。冬休みのあいだには河野もクールダウンするだろう。いや、地元の高校生の彼女なんだから毎日デートで、休み明けはもっとテンション上がってるのか?
 それもなんだか面倒だな。テンションの違いが大きすぎて、祐樹は河野の言っていることがほとんど理解できないのだ。
「いやいや、大事なことでしょ。まあやらせてはともかく、じぶんの気持ち、ちゃんと言ってる?」
 河野の言葉の意味がよくわからなくて、祐樹は本気でとまどった顔になる。じぶんの気持ち?
「あー、あれなのかなあ。祐樹って男4人兄弟だし女の子に免疫ないだろ。相手に遠慮してんじゃない?」
「うーん? 遠慮、なのかな?」
 言われてみればそうかもしれないと思う。たしかに女の子に免疫はない。小学生のときは女子は敵のようなものだったし、中等部のときはまったく接点がなかった。
 たとえば男相手なら先輩である大澤にも言いたいことを言っていた。綾乃には遠慮してるのか? でも言いたいことってべつに無いような…。世の中のカップルはそんなに話したいことがあるのだろうか?
「それか彼女は年上だし祐樹が手のひらで転がされてる感じで、ケンカにならないのかもな」
 うんうんと河野はひとりで納得している。
 綾乃は女の子というより姉みたいな感じだったからつき合えたのかもしれない。ってことは、おれは女の子は苦手なのか? うん、たしかに得意ではないけれど、でもこの居心地の悪さはなんだろう。 
 ホームルームが始まるまで、祐樹は黙って考えに沈んでいた。
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