あの日、北京の街角で 番外編 これもほどよく憂鬱な日々

ゆまは なお

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第7章-1 誤解と想像

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 12月に入ってショッピングセンターはどこもかしこもクリスマス仕様になっている。

 赤や緑や金がメインのディスプレイはなんだか気分をうきうきさせる力を持っていて、街全体が華やかで楽しげだ。

 ウィンドウに映るじぶんを見ながら、祐樹はちゃんと楽しそうに見えるだろうかと無意識のうちにチェックした。ここ最近の癖になっているが祐樹自身は気づいていない。

「あれ? 祐樹姫じゃん?」

 久しぶりの呼ばれ方に、思わずふり向いた。どこかで見た顔が祐樹を認めて親しげに笑いかけた。だれだったっけ? 見覚えはあるが名前が出てこない。

 こんな感じじゃない彼を知っているはずだ。どこで会ったんだろう? 相手は祐樹の疑問を表情で読み取ったらしい。

「本多だよ、大澤と一緒に生徒会やってた。忘れちゃった?」
「ああ、はい。覚えてます。本多先輩、お久しぶりです」

 本多の卒業以来、初めて会うだろうか。ということはほぼ2年ぶりだった。

 とくに親しかったわけではないが、大澤と仲が良かったから祐樹と顔を合せる機会はけっこうあった。週に一度の「大澤王子の祐樹姫詣で」にも何度かついてきたはずだ。

 でも会話したことはほとんどなかった。あのころ、祐樹は大澤を苦手だったし、その周辺の人間にも同じような態度で、じぶんから先輩になついて話しかけるということはなかった。

 本多から話しかけられたことは数回あったが、役職上、そういえばその場にいたな、という感じだったのだ。

 私服姿を初めて見たので高校時代とはずいぶんイメージが違っていた。髪の色がすこし明るくなって、きれいな濃い紫のフレームのメガネをかけている。着ているこげ茶のコートもよく似合っていた。

 派手さはないが気を遣っているのがわかる。そういうタイプだっただろうか。いや、大学生になって2年も経つのだから、これくらいの変化は当たり前かもしれない。

「ひとり? っていうか、姫、すっごい背が伸びてるな。目線が違う。いまどれくらい?」

 祐樹の目線の高さに驚いた顔を隠さず、本多がぽんぽんと祐樹の頭にかるく触れた。

「姫はやめてください。175くらいです。中3のとき急に背が伸びて」

「ああ、ごめん。じゃあ姫は取って祐樹でいい? そうか、成長期だったんだな。背が伸びたらなんか雰囲気変わったな」

「そうですか?」
「ん、きれいになったな。もてもてだろ」

 さらりときれいなどと言われても反応にこまる。赤くなったのをごまかすように訊いた。

「そうでもないです。本多先輩こそ、ひとりですか?」
「ああ、さっき振られたばっかり」

 にこにこしてそんなことを言う。
 これはたぶん冗談だよな? 

 それへ祐樹が反応する暇もあたえず、背中をかるく押して歩き出した。

「というわけだから、ちょっとお茶しようぜ。時間ある?」
「ええと、はい」

 すこしまよったが、ほぼ2年ぶりに会う先輩にじゃあさようならというのも気が引けて、祐樹は誘いに乗ることにした。
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