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第2章-2

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 極上の笑顔で告げ、手を伸ばして祐樹の頭をなでた。ずざっと下がろうとしたが、じぶんの椅子とうしろの机に当たってそれ以上さがることができず、祐樹は椅子にすとんと腰を下ろした。

 その祐樹の目のまえ、机のうえに紙袋を置かれた。

「今後、縦割りクラスで一緒に体育祭の練習をするのに、体操服がないと困るだろう。これ、俺の中等部のときのだけど、背が伸びるのが早かったからほとんど着てないんだ。今日の練習はひとまずこれ、使ってくれる? 返さなくていいからね」

 紙袋のなかは体操服らしい。もう使わないからくれるようだが、そんな親しい間柄でもなく困惑して大澤を見上げた。大澤はそんな視線をものともしない。

「じゃあ、また放課後に。困ったことがあったら、必ず言うんだよ、祐樹」

 ダメ押しとばかりに名前を呼んで微笑むと、あっけにとられた祐樹が口を開くまえに大澤は悠々とした足取りで教室を出て行った。

 大澤の姿が廊下の向こうに見えなくなり、ようやく呪縛が解けたかのように、教室内にざわめきが戻る。いや、ざわめきどころではなく蜂の巣をつついたような大騒ぎになっている。


「祐樹、どういうことだよ」
「なになに、お気に入りって」

「っていうか今のだれ?」
「知らないのかよ。高等部の生徒会長だよ、2年の大澤先輩」

「いつの間にそんな親しくなったんだ?」
「すげー、かっけーな、大澤先輩」

「いや、まじで迫力あるわー」
「背高いよな、180以上あるよな」

「で、なんで大澤先輩が祐樹に会いに来たの?」
「…知らない」

 祐樹がなにをいう気力が出なくても、昨日の放課後、初めての縦割りクラス練習に一緒に参加したクラスメートが、大澤と祐樹の話を広めてしまった。

 べつにどうということはない。

 体育の授業後、置いてあったはずの体操服がなくなっていたため、制服のまま縦割りクラスの練習に来た祐樹に事情を聞いた大澤が一緒に体操服を探してくれた、というそれだけのことだ。

 それだけのことだったはずだ。

 なのに、いまのこの教室内の大騒ぎはどういうことだ。

 ふと目線を感じて振り返ると、じっと祐樹を見ているクラスメートがふたりいた。片隅で固まってひそひそ遠巻きに祐樹を見ている。

 たぶん、あいつらなんだろう、と祐樹は思っている。

 はじめはシャーペンとか消しゴムだった。あれ?忘れたかなと思うことが何度かあって、だれかの仕業だと思い始めたところで、上靴やリコーダーが消えるようになった。

 といっても、完全になくなるわけでもなく、次の日くらいにはあっさり目立つところで見つかる。

 祐樹の困った顔やあわてる顔を見たいがためのいたずらか、単なる嫌がらせかはわからない。

 さりげなく物がなくなったときに教室内を観察して、このふたりだろうと当たりをつけたが、どうしたものかなと思っていたところで昨日の縦割りクラスがあったのだ。

 あいつらだろうなと目星はついているが、こういうことは憶測では口に出せない。現場を押さえない限りは認めないだろう。

 それがわかるから、祐樹はいままで騒ぎ立ててこなかった。

 それなのにあの野郎。と大澤の顔を思い浮かべる。こんな大騒ぎにしやがって。一体、どういうつもりなんだか。でもまあ、起きたことは仕方ない。ほっておけば、こんな騒ぎはすぐに治まる。

 けれども、祐樹は甘かったのだ。

 それは放課後の縦割りクラスの練習に行って、思い知らされた。

 縦割りクラスの練習は、各学年のクラスから選抜されたメンバーで行われる。クラスから5名選ばれた中に、祐樹と嫌がらせの首謀者だと思われる遠藤と木村が入っていた。

 偶然ではもちろんない。立候補した遠藤と木村が、祐樹を推薦してメンバーに入れたのだ。ふたりともどちらかというと目立つタイプで、運動も勉強もそこそこできる。

 クラスの中心メンバーといってもよく、どうしてじぶんにちょっかいをかけるのかわからない、と祐樹はうんざりしていた。気に入らないなら構わなければいいのに、わざわざどうして絡んでくるのか。

 相手にするのも面倒で、無視していたがすこしずつエスカレートしている気もしていた。反撃するのがいいのか、はっきり現場を押さえるべきかと考えていた矢先の、きょうの昼休みの大澤の襲撃だったのだ。

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