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 ブルーとシルバーの混ざったような色合いの長い髪に、明るいグリーンの瞳が煌めいている。こんな美しい生き物を見たことがなくて、碧馬はぽかんと彼を眺めていた。
 彼のほうも碧馬を見下ろして、軽く目を見開いた。
 きらりと光った瞳が何か考え込むような色をたたえて、じっと碧馬を見つめている。
「おい、大丈夫か? お前は人族か? こんな森にいたら危険だぞ」
 厳しい声でそう言って、たくましい両腕で碧馬を立ち上がらせた。
「まだ子供なのか、家はどこだ? 家まで送ってやろう」
 びっくりしすぎて何も言えずにいると、彼はいくらか表情をやわらげた。
「どうした? どこか痛むのか? どこから来た?」
「ええと、日本から……? いえ、ここはどこですか?」
 碧馬の言葉を聞いた彼が眉を寄せた。
 今度は何かを探るような目線になって、じっと碧馬を見つめてくる。
「お前は心話を話すのか? 口に出した言葉と一致しないな? 人族ではないのか?」
「? ごめんなさい、何を言っているのかわかりません」
 碧馬は首を傾げて小さく返事をした。
「お前の言葉の意味は分かるが、口にしているのは違う言語だな」
 そう言われて碧馬も相手の口を見た。確かに口の動きと聞こえる言葉が一致していない。
 というよりも彼の言葉は耳ではなく、直接頭の中に語りかけてきているように感じる。聴覚で聞いているのではないのだ。
 さっきからずっとおかしなことが起きているが、この事態をなんとか説明したくて碧馬は思い切って彼に自分の身に起きたと思われることを言ってみた。
「ええと……。たぶん、俺は異世界に飛ばされたんだと、思うんです、けど……」
 口にした台詞の突拍子のなさに自分でも怯んでしまうが、相手は笑ったりはせず、ふむと考え込んだ。そして碧馬の全身にさっと視線を走らせた。
 自分がほとんど全裸なことを思い出して、カーッと頬が熱くなった。靴下と上履きだけの間抜けな格好で森の中に立っているのだ。
 裂かれた衣類はもう着られる状態ではなく、どうしようかと焦っていたら、少し後ろにさっき脱いだ学ランが落ちているのが見えた。
 その視線に気づいた彼がさっさとそれを取りに行って、肩から掛けてくれた。かろうじてお尻くらいまでは隠れる。全裸に学ランもおかしいが、気持ち的には裸でいるよりましだった。
「まあいい。ひとまず、落ち着ける場所に行こうか」
「あの、あなたは誰ですか?」
「ああ、悪い。自己紹介もしていなかったな。俺はリュカだ。この森の自警団をしている」
 自警団が何をする組織かわからないものの、悪い人ではなさそうだと碧馬はリュカを見上げた。
「俺は井ノ又碧馬です」
「イノマタアオバか。とりあえず背中に乗れ」
「え、でも…」
「足を痛めているんだろう? 歩くのはよくない」
 下着もつけていないのに人(?)の背中に乗っていいものかと迷った末に、碧馬は裂かれたシャツを拾い上げて腰に巻きつけた。裸で乗るよりは少しはいいような気がした。
 それからおそるおそる背中に乗る碧馬を、リュカは面白そうに見ていた。馬に触ったことはないけれどこんな感じだろうか、艶々した毛並みは手触りがよかった。
 それに温かい。体温が伝わってきて、何となくほっとした。
「しっかり掴まっていろ」
そう言われて腰に手を回すと、リュカの肩にきれいな馬のタトゥーが浮かんでいるのが見えた。
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