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第4章-5

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「上野、友達? うちの留学生?」
 近くの席にいた日本人や韓国人やイタリア人の留学生のグループが話しかけてきた。
「いや、駐在員の人。この前、知り合ったんだ」
 祐樹が軽く会釈すると、その五人は気楽に挨拶してくれた。
 背中で聞いていると中国語で会話していたかと思うと英語が混ざったり、日本語の単語やイタリア語が飛び出したりと、ちゃんぽんな言葉で会話が繋がっていく。
「留学生同士の会話っておもしろいね」
「共通言語は北京語だけど、来たばっかだと英語メインの会話が多いし、だんだんミックスになっていくんだよな」
 孝弘もそうだったと笑う。

 食事を終えて、また大学内を散歩する。
 孝弘が言った通り、大学内には職員とその家族が住む団地のような職員寮や広大な自転車置き場や運動場がいくつもあって、通り道に屋台の煎餅屋や飴売りなども店を出している。
 まるっきり外の町と同じような感じで、孝弘も普段の移動は自転車を使っているそうだ。
 本屋に案内してもらって孝弘お勧めの初級のテキストを二冊買った。
 孝弘自身が去年使って、とても役立ったと言う。祐樹の中国語レベルは本当に初心者で、まだ買物もおぼつかないくらいだ。


 孝弘の留学生生活を垣間見て、祐樹は楽しい気持ちで帰りのタクシーに乗った。 
 家に帰ってシャワーを浴びたあと、買ったテキストをめくってみた。
 北京に留学して来た学生が徐々に生活に慣れて行くというストーリー仕立てのテキストだ。到着初日の北京空港から始まって、寮の説明、入学式、授業のこと、買物の仕方、バスの乗り方、北京観光など生活に必要な場面の会話がたくさん出てくる。
 なるほど、わかりやすい。

 テキストの留学生生活を目で追いながら、孝弘もこういう一年目を過ごしたんだろうと想像する。
娯楽的なものがほとんどなかった孝弘のシンプルな部屋を思い返した。
 必要最低限のものしか持たず、それでも本人はいたって気楽にその生活を楽しんでいる。
 そのたくましさがいいなと思う。ポジティブでチャレンジ精神があって物怖じしない。異文化を受け入れる心の広さと明るさがある。彼といると気持ちが晴れやかになる。
 数年後、どんな大人になるか楽しみだと祐樹は孝弘に会うといつも思う。

 いい子だな、一緒にいると楽しい。
 それ以上の感情は持たないように、注意深く心をコントロールする。

 学内を歩いているとあちこちから声を掛けられていた。
 日本語も英語も中国語もちゃんぽんで会話する孝弘は生き生きして恰好よかった。あんなふうに会話できたら楽しいだろう。
 封筒からもらった写真を出した。ツーショット写真を眺めて、祐樹は微笑む。孝弘の自然な笑顔がとてもいい。
 次に会えるまでにすこしは中国語で会話できるようになっておこう。
 写真をしまいながら、祐樹はそう決心した。


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