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第6章-2

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「末っ子は要領いいとか言われたりする?」
「たまにね。でも上野くんこそ男らしい顔だし、背も高いし、もてるでしょ」
「それはないなー。そもそも留学生社会は女性上位なんだよ」
「どういうこと?」
「男女比が極端に違うから。うちの学校でいうと、男7女3くらいかな」
「そっか。女子が圧倒的に少ないんだね」
 男女比に差があるから、どちらかと言えば女子に選択権があるのだ。

 孝弘について言うなら北京に来てから二人の女の子とつきあった。どちらも日本人ではなく、相手は半年から1年の短期留学だったから帰国までの数カ月のつき合いで、彼女の帰国と同時に終わった。
 遠距離を続けられるほど気持ちが通うまでには至らなかったし、相手もそう望まなかった。留学生の恋愛はそんな感じで終わることがほとんどだ。

 まれに同国人でつきあって、帰国後も続くカップルがいるが、そんなのはごく少数で、たいていは留学中だけのおつき合いだ。最初から期間限定の恋愛だと承知している。
 留学生の恋愛事情を興味深そうな顔で祐樹は聞いて「期間限定の恋か」とつぶやいた。どこか憂いのある表情で羊肉を口に運ぶ。

「でも日本でつき合っていても、本当はそういうものかもね」
 なんだか突っこめない雰囲気でいうから孝弘はちょっと驚いた。
 日本で期間限定の切ない恋愛を経験したのだろうか。
 どんなシチュエーションで期間限定になる?
 どんな相手と? 
 学生時代の同級生とか? 短期のアルバイトで一緒になったとか?

 気にはなったけれど、でもそんなことを突っ込めるほどには孝弘も無神経ではなくて、迷った末に別の質問をした。
「高橋さんて恋人いるの?」
「どうしたの、急に。上野くんはいるんでしょ?」
「いや。先月、相手が帰国して別れたばっかり。カナダ人だった」
「ああ、期間限定だったんだね。でも楽しかった?」

「まあね。最初から終わりが見えてるから楽しく過ごしていい思い出になったって感じかな。深入りしないつき合いっていうか表面だけって気はしてたよ」
 一緒に授業に出て食事をして、バスに乗って買い物に行ったり観光地にも遊びに行って、もちろんセックスもした。明るい性格と笑顔が好きだったし楽しかった。
 だけど、さっきの祐樹の憂いのある表情を見て、自分の恋愛はそんな気持ちを持ち込むようなものじゃなかったと思った。
「そうなんだ。でもまあ、学生時代の恋愛ってそういうのが楽しいんじゃない?」
 祐樹はいかにも年上の余裕の態度でさらりとうなずく。
 そう言われると、そんなもんかなという気もするし、でも高橋さんはそういう恋愛じゃなかったんだろうと問いかけたくもなった。

「高橋さんは? かるいつき合いが多い?」
「どうかなあ。男ばっかりでがさつに育ってるから、期待外れなんだと思うよ」
 祐樹はあっさり言って、穏やかに微笑む。
 期待外れ? こんな王子様みたいな外見だと女性は何を期待するんだろう。細かな気遣いができるとか? 今まで一緒にいて、孝弘はまったく気を使ったりしないが、それは男同士だからなのか。
 高橋さんて、どんな人と付き合うのかな。

「駐在員はこっちでつき合うとか、あんまりない? 独身も多いし、中国人とつき合うの?」
「んー、海外転勤が近づくとさりげなく結婚の予定を聞かれることはよくあるね。それきっかけで結婚ってことも多いし。単身で赴任すると羽目を外す人も出てくるから、会社としては家族同伴が望ましいんだろうな」
「高橋さんも聞かれた?」
「まだ入社2年目の若造だからね、何もいわれなかったな。ある日突然部長に呼ばれて、ちょっと半年ばかり勉強して来いって言われただけ。で、2週間後には北京にいた」
「へえ、海外転勤て、そんな急に決まるの?」
 もっと事前の準備が大変なのかと思っていた。

「独身だとそんなもんだよ。スーツケース二つ持って来ただけだし。子供がいると学校とか家の場所を考慮しなきゃだからもっと早く打診もあるし、引っ越しも大変みたい」
「そうなんだ」 
 あと数年後には孝弘も社会に出る。
 そこはどんな世界なのか、まだ想像もつかない。
 一瞬、祐樹と仕事ができたらと夢みたいなことを考える。もちろん無理なことはわかっていた。日本で名の通った企業に高卒で入れるわけはない。
 日本で進学しないで留学したのだから、就職もきっと日本の学生とはちがう形になる。今の選択を後悔するわけではないが、少しだけ悔しいような残念な気分を味わった。

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