あの日、北京の街角で

ゆまは なお

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第2章-2

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「高橋さんていくつ? 結婚してる?」
「今年24になる。入社2年目。結婚はまだだよ。どうして?」
「もし結婚してたら、土曜の夕食とか俺と食べてていいのかなあって。っていうか、年上なんだし敬語とか使わなきゃ、ですかね?」
 一応おうかがいをたててみた。
 外見から見てそんなに上とは思っていなかったのだ。でも考えて見れば一流企業の社員なのだから、そのくらいで当然なのだろう。
「んー、会社の関係じゃないんだから。いまさら敬語じゃなくても気にしないよ。そういう上野くんはいくつなの」
「19」
「え、未成年だった?」
 孝弘の手のビールグラスを見て、まあいいかというように祐樹は肩をすくめた。

「大人っぽいから、てっきり二十歳は超えてると思ってたよ」
「よく言われる。ふてぶてしいって。でも日本いた頃はそこまでじゃなかった気もするんだけど。けど気が弱いとこの国じゃやってけないし」
「確かに中国人は気が強いよね。やっぱり人が多すぎるからなのかな、あれは」
 現地スタッフの扱いにでも苦労しているのか、祐樹の口調はやけに実感がこもっていた。
「上昇志向が強いんだって、中国人の友達は言ってた。今はとにかく稼げるようになったもん勝ちって価値観になってるから、どんどん押していかなきゃって」
「ああ、なんかすごいわかるよ。チャレンジ精神があるよね」

「高橋さん、中国語はしゃべれないんだろ?」
「語学学校に通ってる、社命でね。というか、とりあえず半年ほど勉強してこいって言われて北京に来てるんだ。業務手伝いがてら、中国を勉強中ってところ」
 いいながら、くすくす笑いだす。
「だから、こないだの上野くんのガイドはほんと、楽しかったな。勉強になったというか、面白かったよ」
「だったらよかった。中国語、どう?」
「大学で二外で取ってたけど、やっぱり声調が難しい。あと有気音かな。何回聞いてもdaとtaの違いが聞き取れない」
「でも耳はよさそうだけどな」
 前回、何度か聞いた祐樹の発音を思い出す。
 ちょっと舌足らずな感じがかわいかったといったら怒るだろうか。

「語学は嫌いじゃないからね」
「そうなんだ。じゃあ、話せるようになってきたら、そのうち感じるかもだけど、中国語しゃべってると人格チャンネルが切り替わってるよなって、留学生仲間と話したりするんだ」
「人格チャンネル?」
 聞きなれない言葉に祐樹が首をかしげる。
「日本語みたいにあいまいな言い方がほとんどなくて、自分が頭のなかで思ってるよりストレートな言い方になるから、性格まで変わった気になるっていうか。すごく気が強くなった感じがするっていうか。日本語しゃべってるときより自己主張激しい人になったみたいな」
 孝弘の説明に、祐樹は深くうなずいた。
「ああ、わかる気がする。英語もそういうとこあるけど、自分の意見をはっきりいうのに適した言語って感じがするよね。まだ習い始めたばっかりで、ぜんぜん話せないけど」
 そこで祐樹は、追加の料理の発音を孝弘から教えてもらい、オーダーしてみせた。やはり耳がいいのだろう、発音は悪くなかった。

「そういえば、さっきの未成年の話。この国、酒とたばこの年齢制限がないんだって」
「え?」
「中国人から聞いた話だから法律は確かめてないけど、何歳からって決まりがないんだって」
「…そう言われてみれば、路上や店で子供がたばこ吸ったりお酒飲んでたりするの見かけるけど、あれって法律違反ってわけじゃないんだ」
「うん。ちょっとびっくりするよな」
 未成年という概念がないらしい。
 だから相手がある程度の年齢なら飲み物は酒をすすめてくるのが一般的だ。

「そっか、この国では上野くんも酒もたばこもオッケーなんだ」
 そうそう、といって追加のビールを頼む。
「そういえば、長城行った?」
 メーカーの二人が行きたいと話していたのだ。
 万里の長城はけっこう郊外にあるので、タクシーをチャーターして半日くらい必要という孝弘の説明にさすがに無理かとあきらめ半分の感じだったが。

「時間なくて行けなかったみたい。でも実はおれ行ったことあるんだ。北京着いて3日目かな、中国人スタッフが連れて行ってやるって突然言い出して、車も出してくれて」
「それたぶん、彼らが行きたかったんだろうな」
 接待と言いつつ、自分たちが行きたい観光地や店に案内することがよくあるのだ。
「かもね」
 祐樹もわかっているようで、苦笑する。


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