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 食事を終えてから、封筒を開ける。兄からの指示書を見てもよくわからないので、北京に電話を掛けた。
「您好、樱花贸易公司(はい、櫻花貿易公司です)」
 孝弘さんの声が聞こえてほっとする。
 北京事務所には孝弘さん以外に中国人スタッフが二人いてどちらも日本語を話せるけれど、中国人の日本語はやっぱりなまっていて俺にはわかりにくいのだ。

「こんにちは、将太です」
「ああ、お疲れさま。どうかした?」
 孝弘さんが日本語で問いかける。
「兄からFAXが届いたんですけど、絵と指示が書いてあるけどよくわからなくて」
「ぞぞむのFAX? 何の指示書?」
 ぞぞむとは佐々木の北京語読みだ。兄は中国ではそう呼ばれている。

「ブラウス?と折り畳みの帽子みたいな感じ? 物はまだ届いてないんだけど」
「あー、そうなんだ。先々週はホータンにいるって連絡あったから、カシュガルあたりからの指示書かな」
 ホータン。また知らない地名だ。
 ハガキを出してくれても、それが俺の手元に届くのはかなり時間がかかるのだ。辺境の地からだと1ケ月や2ケ月かかることも多い。

 どこだろうと子機を持ったまま、壁に貼ったおおきな中国地図の前に移動する。
「ホータンてどこですか?」
「新疆(シンジャン)だよ。カシュガルは分かる?」
 俺が地図を見ていることを孝弘さんは知っている。このとても詳細な中国地図は孝弘さんが北京から送ってくれたものなのだ。

「わかります」
 新疆ウイグル族自治区だ。カシュガルは漢字で書くと喀什。
 ここにはすでにマークがついている。
 留学時代に行って、当時は北京から列車で途中下車しながらまず省都のウルムチへ。カシュガルへはそこから長距離バスを乗り継いで途中の町で宿泊しながら五日ほどかかったとハガキには書いてあった。

「そこからさらに南東に下って、漢字で平和の和に田んぼの田で和田(ホータン)。北京語発音ではフーティエン」
「ありました。……砂漠の中?」
 タクラマカン砂漠の西の下のほうに和田と小さな文字がある。文字の大きさは町の大きさに比例する。

 こんなところに何しに行くんだ?
 カシュガルからさらに長距離バスを乗り継いで3日ほどかかるらしい。相変わらず、兄はクレイジーだ。






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20代社会人×専門学校生。ヘタレ未経験攻×誘い受(襲い受)の攻防戦。
奥宮匠(おくみやしょう)はシネマカフェ「カノン」で会社員の高良義経(たからよしつね)と知り合う。
一目見て、高良を気に入った匠は彼に誘いをかけ、酔ったはずみで押し倒し、二人で楽しく過ごしたつもりが、ことが終わった途端に高良は怒って半泣きで帰ってしまう。
けっこう盛り上がったと思ったのにどういうこと?  
匠はいぶかしく思うが、高良には自分がゲイだと認めたくない事情があって、ずっと男と恋愛関係になるのを避けていたのだった。
恋愛感情なんて幻と思っていて軽いつき合いを繰り返す匠と、男と恋愛関係になりたくない高良の、不器用なラブストーリー。

ぜひご覧くださいm(__)m
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今後ともよろしくお願いいたしますm(__)m

2022.6.23
ゆまは なお
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