上 下
14 / 15

14

しおりを挟む
「あぁ、やっ、もっと……、いい…触れよ」
 動きをゆっくりにして焦らすと、アキトは蕩けた顔でリカルドを見上げて嫌々するように首を振った。
 絞るような動きにリカルドは息をつめて快感をやり過ごす。
 もっと泣かせてもっとねだらせたい。

 アキトの性器を握って扱きながら、抜く直前まで引いて押し込む。
 びくびくと痙攣するようにアキトの体が震えた。
「これ、好きだろ?」
「あー、あっ、好き、きもち、いいっ…」

 ミケーレはしどけなく寝そべったまま、グラス片手に二人の激しい交歓を眺めている。楽しげな顔でワインを飲む様子は映画でも見ているようだ。
 切羽詰ったアキトの声が上がって、二人はほぼ同時に終わりを迎えた。
 リカルドはシーツに両手をついて呼吸を整える。アキトも大きく胸を喘がせた。

「泣き顔もかわいいね、アキト。やっぱり俺のときよりよさそうだったな」
 ミケーレは優しくアキトの頬を撫でた。
「……ああ、今の、すごくよかった」
 アキトの素直な返事にリカルドはすこし胸がすく気分を味わう。
「意外と体力ある?」
「料理人だからね」
 シェフは立ち仕事なうえに重い鍋や食材も運ぶし、結構な肉体労働なのだ。

「そっか。じゃあ、休憩したらもう一回したいな」
 ミケーレのおねだりにリカルドは何も言わない。
「夜はこれからだろ?」
 リカルドの態度から、もうこんなチャンスはないとミケーレは理解している。

「アキトは寝ててもいいよ、俺がとろとろにしてあげるから」
 すこしくらい乱暴でも構わないが奉仕ばかりされるのは好みじゃない。
「一方的なセックス、好きじゃないんだけど」
 じぶんが翻弄するくらいのセックスが好きなアキトがそう言っても、ミケーレはかるく受け流した。

「言っただろ、今日はみんな東洋の黒薔薇を鑑賞しに来たんだって」
 頬に口づけたミケーレが歌うようにささやいた。
「だから今夜、君はきれいに散るまで俺に鑑賞されるんだよ」
「さすがお貴族様は誘い文句もお上品」
 アキトがふざけてぱちぱちと拍手する。

 ミケーレはケチのつけようのない王子様の微笑みで応えた。
「お褒めにあずかり恐悦至極。…いいだろ、リカルド」
 リカルドは苦い表情になったが、諦めて肩をすくめた。
 アキトが嫌がらないなら今さら止めるのは難しい。それにすこしはリカルドも見てみたいと思っている。
 アキトがどんなふうに乱れて咲いて散っていくのか。

 それから真夜中まで黒薔薇の鑑賞会は続いた。
しおりを挟む

処理中です...