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「そう言えばまだ続いてるのか、あの日本人と」
 ミケーレがエスプレッソを片手にリカルドを振り返った。
「アキト? ああ」
 加賀美彰人(かがみあきと)の小悪魔な微笑みを思い出して、リカルドは揺みかけた頬に力を入れた。にやけた顔をミケーレに見せたくない。

「へえ。お前にしちゃ結構続いてるな?」
「そうだな。出会ったのが…3月?」
「ああ。確かレオンのパーティだっただろ」
 といっても彼はゲストではなかった。ライブキッチンのシェフだった彼にリカルドが気まぐれに声を掛けた。顔が好みだったのだ。

 誘いに乗ってやって来た彼は、キスだけと笑ってリカルドを躱し「肉でもワインでも熟成させたらおいしくなるでしょう?」とうそぶいた。
 いたずらっぽく黒い瞳を煌めかせて「お望みのところにキスしてあげる」と唆かされたリカルドは、彼の舌技に翻弄された。

 それから何度かデートした。予想よりずっと遊び慣れていて性悪なアキトにリカルドは振り回されたが、利害関係がなく駆引き上手な彼とのやり取りはドキドキして楽しめた。

 そんなある日、アキトが酒を贈ってきた。
 その酒とセットで俺をプレゼントというアキトの提案には正直感心した。
 後腐れなく期間限定で遊ぼうという意図をアキトは上手に伝えてきた。滅多に手に入らない希少な日本酒とワインが3本ずつ。多いのか少ないのか、絶妙な数だった。

 生まれた時から大貴族の御曹司として育ったリカルドは奔放に遊んできたしそれなりに経験を積んでいたけれど、アキトの仕掛けるいたずらはドロドロした恋愛感情や損得勘定が絡まないのでとても心地よかった。

 酒の本数だけ彼と寝て、もう遊びは終わりという日にリカルドは「僕とつき合って」と口にした。
 アキトは渋ったけれどリカルドが粘ると、いたずらを思いついた子供みたいな無邪気な笑顔になって「まあいいけど。じゃあ覚悟して」と軽い口調で告げた。
「俺は結構手がかかるよ」と。

 それが一週間前の話だ。
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