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過去3年間近くかけて、ぞぞむと孝弘は雲南省の市場を訪ね歩いて、職人を探して回り、地道な買付け交渉を続けて、少しずつ取扱い商品を増やしていったのだ。
技術指導や生産管理の方法を教えるのに、ぞぞむにいたっては年の半分くらいを雲南省を巡って過ごしたほどだった。
10月初めなら雲南省は真夏を過ぎて、少し過ごしやすくなっている。風景も習慣もまったく違う少数民族の街を訪ねるのは祐樹は初めてだからきっと驚くだろう。
それにこれはいい機会かもしれない。いずれ櫻花公司に祐樹をスカウトするつもりでいる孝弘にとっては願ってもない申し出と言えた。
櫻花公司の現場をいつか見せたいと思っていたが、祐樹のほうから興味を持ってくれるなんてラッキーだ。
「じゃあ、工房に行けるかは今から連絡するけど、とにかく雲南省に旅行しようか。きっと楽しいと思うよ、漢族の世界とはまったく違う風景とか文化があるから」
「少数民族が多い地区だってことしか知らないんだけど…。支社が昆明にあるけどそんなに取引額大きくないよね。農業が盛んな地区だっけ?」
「そうだな。雲南省全域が開放地区になってまだ間がないんだ。工業化は遅れてる。でも観光地としてはかなり可能性が大きいし、実は欧米人バックパッカーにはものすごく人気があるエリアだよ」
「へえ、そうなんだ。どうして?」
「まず少数民族が多くて、文化的な価値がある。それぞれ民族衣装や習慣や祭りなんかも独自のものを持ってて、それを見に行くバックパッカーがけっこういるんだ。だから安いゲストハウスも意外と多い」
「そういうとこに孝弘も泊まってたの?」
「ああ。長期滞在だと宿泊費がバカにならないから」
「おれ、ゲストハウスって泊まったことない」
なぜか目をキラキラさせて祐樹が言いだした。
「そういうところ、泊まってみたいな」
孝弘は本気だろうかと祐樹の顔をまじまじと見る。
「いいけど、ホントに民家で、ベッドしかない部屋と共同のリビングに水シャワーのみって感じだぞ?」
「いいよ、楽しそう」
マジかよ、…いや、案外平気なんだろうな。
祐樹が見た目の繊細さに反してけっこう図太いことは知っている。
四人兄弟で育っているから、いい意味で大雑把で細かいことに目くじらを立てないおおらかさがある。ゲストハウスも多分平気だろう。
「ま、いいや。じゃあゲストハウス行ってみて、泊まれそうなら泊まろうか」
すごく楽しみ、と祐樹はにこにこして立ち上がる。
「雲南省って昆明以外にどんな街があったっけ?」
言いながら、二人で壁に貼った大きな地図の前で雲南省を探している。
隣りに立った孝弘の指が、迷いなく一点を指した。
「ここが省都の昆明。来年、花博やるからすこしは日本人にも知名度あがったかもな。花博に合わせて日本から直行便出すって話も出てるし観光客は今後絶対増えるね」
「少数民族って50以上あるんだっけ?」
「55民族だったかな? 俺もうろ覚えだけど、雲南省には25民族くらいいるはず」
「北京や広州では多民族国家ってイメージなかったけど、そう聞くと驚くね」
「あと有名なのは、やっぱ麗江かな。去年、世界遺産に登録されたから」
「あ、聞いたことある。テレビで見たかも。なんかすごいキレイな街なんだよね?」
「登録するためにだいぶ整備したからな。でも雲南省はあったかいし食事も言葉も全然違うから中国っていうより、外国に行ったみたいで面白いよ」
いたずらっぽく笑う孝弘に祐樹の気分も上がる。また孝弘と別世界に行ける予感がして、祐樹は一気にわくわくしてくるのを感じて休暇が楽しみになった。
完
ここまでで一旦完結とします。
おつき合い頂き、ありがとうございました。
大連編はまた別立てで公開したいと思います。
感想など頂けると励みになりますので、よろしくお願いします<(_ _)>
このあと『Siと言うまで帰さない』を連載します。
貴族の御曹司×性悪誘い受の大人の駆け引きをテーマに書いた短編です。
ぜひ、遊びにきてください。
技術指導や生産管理の方法を教えるのに、ぞぞむにいたっては年の半分くらいを雲南省を巡って過ごしたほどだった。
10月初めなら雲南省は真夏を過ぎて、少し過ごしやすくなっている。風景も習慣もまったく違う少数民族の街を訪ねるのは祐樹は初めてだからきっと驚くだろう。
それにこれはいい機会かもしれない。いずれ櫻花公司に祐樹をスカウトするつもりでいる孝弘にとっては願ってもない申し出と言えた。
櫻花公司の現場をいつか見せたいと思っていたが、祐樹のほうから興味を持ってくれるなんてラッキーだ。
「じゃあ、工房に行けるかは今から連絡するけど、とにかく雲南省に旅行しようか。きっと楽しいと思うよ、漢族の世界とはまったく違う風景とか文化があるから」
「少数民族が多い地区だってことしか知らないんだけど…。支社が昆明にあるけどそんなに取引額大きくないよね。農業が盛んな地区だっけ?」
「そうだな。雲南省全域が開放地区になってまだ間がないんだ。工業化は遅れてる。でも観光地としてはかなり可能性が大きいし、実は欧米人バックパッカーにはものすごく人気があるエリアだよ」
「へえ、そうなんだ。どうして?」
「まず少数民族が多くて、文化的な価値がある。それぞれ民族衣装や習慣や祭りなんかも独自のものを持ってて、それを見に行くバックパッカーがけっこういるんだ。だから安いゲストハウスも意外と多い」
「そういうとこに孝弘も泊まってたの?」
「ああ。長期滞在だと宿泊費がバカにならないから」
「おれ、ゲストハウスって泊まったことない」
なぜか目をキラキラさせて祐樹が言いだした。
「そういうところ、泊まってみたいな」
孝弘は本気だろうかと祐樹の顔をまじまじと見る。
「いいけど、ホントに民家で、ベッドしかない部屋と共同のリビングに水シャワーのみって感じだぞ?」
「いいよ、楽しそう」
マジかよ、…いや、案外平気なんだろうな。
祐樹が見た目の繊細さに反してけっこう図太いことは知っている。
四人兄弟で育っているから、いい意味で大雑把で細かいことに目くじらを立てないおおらかさがある。ゲストハウスも多分平気だろう。
「ま、いいや。じゃあゲストハウス行ってみて、泊まれそうなら泊まろうか」
すごく楽しみ、と祐樹はにこにこして立ち上がる。
「雲南省って昆明以外にどんな街があったっけ?」
言いながら、二人で壁に貼った大きな地図の前で雲南省を探している。
隣りに立った孝弘の指が、迷いなく一点を指した。
「ここが省都の昆明。来年、花博やるからすこしは日本人にも知名度あがったかもな。花博に合わせて日本から直行便出すって話も出てるし観光客は今後絶対増えるね」
「少数民族って50以上あるんだっけ?」
「55民族だったかな? 俺もうろ覚えだけど、雲南省には25民族くらいいるはず」
「北京や広州では多民族国家ってイメージなかったけど、そう聞くと驚くね」
「あと有名なのは、やっぱ麗江かな。去年、世界遺産に登録されたから」
「あ、聞いたことある。テレビで見たかも。なんかすごいキレイな街なんだよね?」
「登録するためにだいぶ整備したからな。でも雲南省はあったかいし食事も言葉も全然違うから中国っていうより、外国に行ったみたいで面白いよ」
いたずらっぽく笑う孝弘に祐樹の気分も上がる。また孝弘と別世界に行ける予感がして、祐樹は一気にわくわくしてくるのを感じて休暇が楽しみになった。
完
ここまでで一旦完結とします。
おつき合い頂き、ありがとうございました。
大連編はまた別立てで公開したいと思います。
感想など頂けると励みになりますので、よろしくお願いします<(_ _)>
このあと『Siと言うまで帰さない』を連載します。
貴族の御曹司×性悪誘い受の大人の駆け引きをテーマに書いた短編です。
ぜひ、遊びにきてください。
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