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第4章-3

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 東雲とは2年半ほどつき合った。祐樹にとって初めての同性の恋人で、同性とつき合うことに情緒的にまだ不安定だった祐樹を、大人の包容力でしっかり受け止めてくれた人だ。

 そういえば、達樹に東雲とのデートを見つかって、問い詰められたことがあったな。

 あの時の、達樹の困惑しきった顔を思い出す。

「あのさ、祐樹。訊きたいことあんだけど」

 部屋に来た達樹がものすごく言いにくそうに切り出してきたとき、祐樹はとうとうこういう時がきたのかとひそかに覚悟を決めた。

「この前、って先週の土曜だけど。夜にバーで祐樹を見かけたんだけど」
「うん」

「けっこう年上っぽい人と一緒だったけど、あれって誰?」
「…その人とおれ、なにしてた?」

「なにって…。なんていうか、…すげー仲よさそうだったから」

 言いにくそうに、達樹は言葉を濁す。あのときかと、先週土曜のバーという言葉でだいたいのことはわかった。

 そこは表からはわからないが、その店のマスターがゲイなので比較的同じ嗜好の者が集う場所だった。

「…もしかして、キスしてた?」
「王様ゲームか? なあ、そうだろ。あれ、誰だよ?」

 達樹はかなり動揺しているようだった。コンパでもないのにふたりで王様ゲームはないだろう。前から決めてあったとおり、正直に答えることにした。

「恋人だよ、いまつき合ってる人」
「って、男だったじゃん」

「うん。彼氏っていったほうがいい?」
「同じだよ! だってお前、高校のときはずっと彼女がいたじゃん」

 混乱したように祐樹を睨みつけてくる。

「うん。じぶんなりに頑張ってつき合ってたんだ。合う女の子がいればいいなと思って色んなタイプの子とつき合ってみたけど、おれは無理なんだってわかっただけだった」

 しばらく黙ったあと、おそるおそる達樹は尋ねた。

「祐樹って、男が好きなのか?」
「そうみたい。恋愛するなら男性がいいんだ」

 平然と答えた祐樹を、達樹は信じられないものを見る目で見つめて、それから諭すような口ぶりで言った。

「それはたまたまその子たちが合わなかっただけじゃないのか? それかあれかな、祐樹はどっちもいけるタイプで、いまがたまたま男性に魅かれてるだけで、そのうちまた女の子とつき合うこともあるんじゃないのか?」

 思いがけない打明け話に達樹はかなり動揺していた。祐樹の言葉を受け入れ難いようだ。

「無理だと思うよ。目がいくのって男性ばかりだから」
「…ひょっとして、勃たねーの?」

 ぼそっと、身内ならではの直球を達樹が投げてくる。祐樹はそれにも正直に答えた。

「そうじゃないけど。女の子ともセックスはできる。でも気持ちはないっていうか、物理的に触れば反応するってだけで、抱きたいなんて1回も思ったことないんだ」

 祐樹の返事に、達樹は毒気を抜かれたようにぽかんとしている。理解が追い付かないようで、え、でもとちいさくつぶやく。混乱した表情のまま、首をかしげて子供のような口調で訊いた。

「…男とセックス、できるのか?」
 そんなことを想像したこともないのがよくわかる、素朴な響きだった。
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