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第3章-6

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「ところで、西単(シータン)のほうの準備は進んでんの?」

 ここ、北京店1号店は王府井から通り1本入った場所だった。2号店は西単に8月にオープンが決まっている。

 北京の店はコンセプトを統一させておくことにしたので、基本的に1号店とすべて同じ仕様だ。王府井と同じくショッピングエリアなので、観光客相手のカフェとお土産品を前面に出している。

「うん。1号店の準備がけっこう苦労したから、2号店はまあまあ順調だよ。スタッフの教育と在庫管理がやっぱいちばん大変かなあ」

「手工芸品だから、そんなに数作れない商品もあるもんな」

「うん。工場で大量生産してるわけじゃないからね。そうだ、松本美沙(ソンベンメイシャー)って覚えてる? 語言にいた留学生の」

 語言学院にはちょくちょく遊びに行っていたので、友人知人はかなりいる。松本美沙は日本の大学を休学して1年の語学留学に来ていたときに知り合った。かわいい顔をしているが、豪快で大らかな性格で中国生活を満喫しているタイプだった。

 語学留学を終えたあと日本の大学に戻ってそこを卒業してから、さらにこちらに留学してきたほど中国好きな女子学生だったはずだ。

「おー、覚えてる。松本(ソンベン)がどうしたの?」

「言うの忘れてたけど、今後スタッフに入ってもらうことになってて、来週からぞぞむに着いて現地研修の予定してる」

「あ、そうなんだ。え、現地研修? 工場か? ぞぞむに着いてってだいじょうぶかよ…。あー、いや松本はだいじょうぶだな、うん」

「うん。すごく楽しみって、辺境の村もぜんぜん平気だろうってさ。生産管理とか在庫とか、任せていく気でいるみたい」

「そうか、いいんじゃない。小物とか女性目線が入ってくるとまた違うだろうし」
「そういえばデザインも新しい女性スタッフ、入れたんでしょ?」

「ああ、俺の高校の友達でテキスタイルデザインやってる子。日本から出たことない奴だけど、こっちの少数民族の布使うって言ったら、ぜひやりたいって向こうから連絡来たんだ」

 その間野歩(まのあゆみ)は日本で仕事をしながら、こちらのデザインにも加わってくれるという話になっている。

 ぞぞむから聞いたところによれば、少数民族のテキスタイルでいずれ服や雑貨も作りたいという意向があるようだ。

 ぞぞむが手掛けてきた両面刺繍やタペストリーといった高級路線の商品より、もっと身近に日常的に使える商品を作りたいらしい。

「あのようすじゃ、そのうち中国の現場に来たいって言い出すんじゃないかな」

「へえ、それもおもしろいんじゃない? 中国初体験が雲南省のうちの工場なんて」

「間野は日本人の普通の感覚の持ち主だから、こっちに来たらびっくりして卒倒するかも」

 店舗を持つという話が出たときから予想していたことではあるが、取り扱う商品数やスタッフは3人で仕事をしていた時から大幅に増えてきていた。

 レオンも元々は経理メインの担当だったが、いまは経理的な仕事だけではなく、必要とあれば中国各地を飛び回っている。

 新しい局面に来ているのだと、その忙しさで実感する。

 レオンもぞぞむもじぶんも。仕事の面でもプライベートでも。ここからが正念場だと、気を引き締めなければと思う。

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