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第2章-7

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「でもカフェ店舗は今後も増やしていく方向でいるから、スタッフもどんどん増えるし、そうなってくるといずれしっかりしたマネージャーが必要になるよね。将来的にそういうのはどう?」

「たぶん直接の接客はしたことないと思うけど、広州や深セン時代に中国人スタッフをマネジメントしてたはずだからマネジメント経験はあるはず。でも、どうだろうな。それがストレスの元だったのかもしれないし。まあ状況が違うからいけるかもな」

「あの人は何でもできるだろ、やる気さえあれば。だいたいが仕事できる人なんだし、仕入れでも商品開発でも販路開拓でも接客でも、それこそ事務的な税金処理でも何かしらやれるだろ」

 そもそもちいさい会社だし、仕事の内容にこだわらなければしたいことができるのだ。そうなると問題は結局、祐樹が転職する気があるかどうか、の一点にかかってくる。

「まあそうだな。とにかく祐樹に話をしてみてからだな」
「ま、とりあえず、4日後のパーティでどういう仕上がりか見てみないとな。スタッフの仕上がりは?」

「前日にかるくシュミレーションはするんでしょ?」
「ああ。高原さんが指導に来てくれるってさ。ありがたいよ」

 北京店のカフェスタッフ3名は1カ月前から市内のホテルのカフェで接客とドリンクの作り方の研修中だ。ひとまず日本のコーヒーチェーンレベルの味を目標にしている。

 4日後にテストオープンとして、友人知人と雑誌やネットの記者を招いてかるく店のお披露目パーティをすることになっているので、そこでどんな評価を得られるか。

 それは孝弘も前々から招待されているのだが、現在の立場上ホスト側ではなく客として招待されているのが変な感じだ。

 この先の2年間は会社にとっても孝弘にとっても、けっこうな分岐点になるだろうと予感がしていた。

 祐樹とともに孝弘は大連で結果を出すために奮闘しなければならないし、その間、会社のほうは2年間で10店舗の出店計画を立てている。

 店舗をもてば今までの卸販売とは違って、スタッフも扱う商品数もアイテム数も増える。それをカバーする経営体制に持っていかなければならない。

 ぞぞむとレオンは孝弘が抜けるのは痛いなと言いはしたものの、絶対に祐樹を捕まえろと発破をかけただけで、仕事の件では一言も不満を言わなかった。

 だから孝弘は遠慮しないことにした。会社のことは気になるし、できる範囲でやれることはするつもりだが、まずは祐樹と大連の仕事を優先すると決めた。

「まあ、いいじゃない。大連はこれから2年間のプロジェクトなんでしょ。そのあいだにゆっくり考えて決めれば。孝弘だって気が変わってあっちに入社するとか言うかもしれないし」

「いやー、ないだろ、それは」

 いくつもの会社の通訳やアテンドを引き受けているうちに、正社員にというスカウトは何度か受けた。けれども孝弘はそれらをすべて断っている。

 収入的にはいまより安定するのかもしれないが、金銭よりも自由に仕事を選べる気楽さのほうが重要だった。

「やっぱ企業で正社員って、俺の性格に合わないみたいで。今回の専属契約もホントいろいろ大変だったしさ」

 祐樹と一緒に仕事ができるという条件がなかったら絶対契約しなかっただろう。でもこの先、一生分の祐樹を手に入れるためだったから、あえてこの契約をじぶんの会社より優先したのだ。

「孝弘は企業の駒で仕事するより、じぶんで考えて動くほうがいいんだろ。フリーで仕事するのに向いてると思ったから、俺だって声掛けたんだし」

「え、そうなのか? たんに気が合うからだと思ってた」

「そんな簡単な理由じゃねーよ。けっこう賭けみたいな仕事に引っ張り込むんだし、じぶんでじぶんの責任負えそうにない奴は誘えねえよ」

 ぞぞむがそんなふうにじぶんを評価していたとは知らなくて、孝弘はちょっと驚いた。孝弘の表情に、ぞぞむはにやりと笑って見せる。

「全然知らなかった」

 ぞぞむに誘われたときのことを思い返してみても、そんなことを考慮して声を掛けてきたとは思えない気軽さだったと思う。
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