上 下
6 / 7

6

しおりを挟む
 香港には相互学習の相手だったサラも帰国していて、再会する予定になっている。
 サバサバした明るい性格の女の子で、美人でとてもモテたが留学先では恋愛関係は求めていないのと公言していた。孝弘に対しても特別な感情を持たなかったので、男友達といるみたいな感覚でつき合いやすかった。
 サラもレオンも友人たちを紹介してくれるというので、それも楽しみだった。
 この夏はチベットへ買付けに行くというぞぞむも、8月には香港へ来ると言っている。みんなで香港で会えるなんてと思うとワクワクする。

 でも何より孝弘の気持ちを波立たせるのは、香港は広州からすぐだということだ。
 香港から広州へは列車も高速バスも走っていて、どちらも2時間から3時間ほどの距離だ。香港から切符を買って、列車かバスに乗るだけで着く。
 途中で国境を越えるからパスポートチェックがあるが、中国の留学生ビザを持っている孝弘は広州に入ることができる。

 会いに行こうと思えば行けるのだ。
 でも広州に行ってどうする?
 ただ広州の町を歩いて、ここで祐樹が仕事をしているのかと感じて、それで満足する? 偶然に会えないかと支社の近くに行ってみる?
 ……いや、普通に気持ち悪いだろ、それは。

 冷静に考えれば、北京からでも飛行機なら3時間半で広州に行ける。でも地図上で見る香港から広州の距離は、孝弘の胸をざわつかせた。
 ほんの1センチもないのだ。
 北京からは遠すぎると諦めていたけれど、香港からならすぐに見える。

 ……いや、やっぱダメだろ。
 突然、訪ねていくなんてありえない。そもそも会っても絶対に喜ばれることはない。アルバイトを続けていたことすら知らせてないのに。

 北京支社でのアルバイトは続けていた。
 最初の夏休みの孝弘の働きぶりを気に入った安藤が、冬休みにも声をかけてくれたのだ。夏休み同様、大趙が弟分のように孝弘の面倒を見てくれ、それ以来、途切れずにつき合いが続いている。
 それ以外にも、他社の駐在員に紹介されてこうして家族をアテンドしたり、家族の受診つき添いをしたり、時には日本から出張に来る社員のフォローや通訳をすることもある。

 すこし前から連絡先を渡すのに必要だから、通訳兼コーディネーターの名刺を作って持ち歩くようになっていた。
アルバイト感覚で始めたけれど、最近はほとんど仕事と言ってもいいくらいで、アテンドや通訳で知り合った駐在員から「うちの会社に来ないか」という正社員の打診も受けている。
 なんだかんだであれこれと仕事を引き受けているうちに中国で暮らしていける程度の収入はすでに得ていて、この先、どんなふうに仕事をするか考える時期に来ていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

突然現れたアイドルを家に匿うことになりました

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 「俺を匿ってくれ」と平凡な日向の前に突然現れた人気アイドル凪沢優貴。そこから凪沢と二人で日向のマンションに暮らすことになる。凪沢は日向に好意を抱いているようで——。 凪沢優貴(20)人気アイドル。 日向影虎(20)平凡。工場作業員。 高埜(21)日向の同僚。 久遠(22)凪沢主演の映画の共演者。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

俺に告白すると本命と結ばれる伝説がある。

はかまる
BL
恋愛成就率100%のプロの当て馬主人公が拗らせストーカーに好かれていたけど気づけない話

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

琥珀糖とおんなじ景色

不来方しい
BL
──メールから始まる勘違いと、恋。 祖母の和菓子屋で働く柊藍の元に届いたメールは「取り扱いのない琥珀糖を作ってほしい」というものだった。作ったことがないのに祖母に任せされ、試行錯誤を繰り返しながら腕を上げていく。メールでやりとりをしているうちに、相手はぜひ会ってお礼がしたいと言う。彼の優しさに好意を寄せていくが、名前のせいか、女性だと勘違いをされているのだと気づく。言い出せないまま、当日を迎え、ふたりは……。

処理中です...