あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

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 何か違うかな……。
 手にしていたネクタイを棚に戻した。

 仕事終わりにタクシーを飛ばして大連駅前の巨大ショッピングセンターに来たものの、何を見てもピンと来なくて祐樹は軽くため息をついた。

 孝弘の誕生日まであと数日なのに、プレゼントが見つからないのだ。

 ショッピングセンター内の飾りつけは赤色と金色で派手派手しく賑やかだ。外は真冬の寒さだが、商業施設はどこも人であふれている。

 経済発展するにしたがって、年々、収入は上がっており、それにつられるように店頭の商品も豊富になって人々の購買意欲はうなぎのぼりだ。

 10月の祐樹の誕生日には祐樹のリクエストで春餅を食べに行って、ネクタイをもらった。孝弘が選んでくれたそれは嬉しかったし、お返しのネクタイを贈ってもいいのだけれど少しつまらない気がする。

 でも孝弘の欲しいものって何だろう。
 そもそも孝弘はさほど物欲がないし、コレクションしている趣味の物もない。

 最近欲しいと呟いたものと言えばコードレスクリーナーだ。前任者が置いて行った掃除機があるのだが、それが重くて小回りがきかないと不満を言っていた。

 本人が欲しいっていうんだから、それでもいいんだけど……。家電コーナーで掃除機を横目に見ながら、ハンドミキサーやジューサーが並ぶ一角で足を止める。

 こういうちょっとした調理家電とかでもいいのかな、あげたら使うかも。


 料理に関して祐樹よりよほどマメな孝弘は、時間があるときは凝った料理も作ってくれる。祐樹はびっくりするのだが、凝ったように見えるけどオーブンで焼くだけだからとか圧力鍋で煮込むからあっという間だよとか言って、羊肉のローストだとか骨付き肉のビール煮込みなんかを出してくれる。

 でも調理家電だったら本人が選んだ方がいいよな、おれには使い勝手ってわからないし。ハンドブレンダーと英語で書いてあるイマイチ用途のわからない商品を眺めて、祐樹は首を振った。

「やっぱ一緒に買いに来た方がいいかな……」
 名刺入れや財布のコーナーでまた足を止め、悪くはないなと思う。

 あとは今必要な物でもいいのか。ぶ厚い手袋とか内側に毛皮のついた帽子や耳当て、暖かい部屋着なんかも候補に入れる。

 迷路のようなショッピングセンターを見て回っていると、目の前に春節大バーゲンと大きなのぼりが立っていた。

 そうか、もうすぐ春節だ。
 春節とは中国の正月のことだ。

 今年はいつだったっけ。
 確か2月半ばだったよな。

 勤務表を見て、そう思ったのを思い出す。農歴で祝う春節は毎年日付が変わる。日本でいう旧正月が中国では新年にあたり、大型連休になって盛大に年越し行事が行われるのだ。

 地方から出稼ぎに来ている人々が帰省する時期でもあり、田舎へ向かう国内線はものすごい混雑になる。年に一度の帰省という人も多いから、迎える家族も心待ちにしているのだ。

 そう言えば、達樹からメールが来ていたな。

 数日前、レオンが来ていた時だったからバタバタしていて返信するのを忘れていた。帰ったら返事を書かないと。

 大きなのぼりの前を通り過ぎ、本屋が見えてきたところでふと思いつく。

 孝弘は嫌がるかな? ちょっと考えて、たぶんそんなことはないだろうという結論になった。祐樹は踵を返して、春節大バーゲンののぼりを通ってカウンターに近づいた。

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