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しおりを挟む「お酒どうする?」
「んー、ワインもあるけど、なんかビールな気分だな」
「いいよ、ビール飲もうよ」
孝弘のビールストックの中から、大連産の黒獅ビールを選んで乾杯する。
「ていうかさ、見た目ローストチキンだけど、これ違うよな」
「うん、何となくそんな気がした」
チキンはこんがりと香ばしくあまいしょう油の味がした。しょう油とオイスターソースと何だろう、何か中国チックな香辛料の香りがする。
孝弘も香ばしいしょう油の匂いで予想がついていたから、ワインではなくビールを選んだのだ。確かにビールに合う味だった。
「食べてみて、全然違うじゃんって怒ってる人いるかもな」
「だよね。北京ダックにちかい? この香りなんだっけ? グローブ?」
「五香粉《ウーシャンフェン》? あ、ちがう、八角《パージャオ》だ」
「あの星みたないな茶色いの?」
「そうそう。茶蛋《チャータン》もこの香りするだろ」
「そっか、どっかで知ってると思ったら茶蛋だ」
祐樹は中華料理を作らないのでこちらの調味料に疎いままだが、留学生時代から中国人の家に遊びに行っていた孝弘は、そこで家庭料理を教えてもらったらしい。
「まあ中国のクリスマスだもんね」
「そうそう、しょう油と八角のローストチキンも悪くないよな」
「ビールにも合うしね」
初めてのクリスマスディナーは中国風味のチキンでお腹いっぱいになった。
「祐樹。賭け、覚えてるよな?」
「……う」
食後にソファでテレビを見ながらいちゃいちゃしていたら、口づけられたまま押し倒されてしまった。
「覚えてる、よ」
至近距離で孝弘がじっと目を合わせている。
賭けというのは、先月、瀋陽の坂本から来たメールにあったスーパーの閉店時期についての話だ。スペースシャトルに見立てた乗り物に乗って買い物するというスーパーが三カ月もつかどうかという賭けで祐樹が負けた。
負けた方は勝ったほうのおねだりを一つ聞くというルールの他愛ない賭けだ。ルールは他愛ないが、この場合、どんなおねだりかというのが問題だ。
「じゃ、今から俺の言うこときいて?」
「……うん」
「シャワーしたらこれ穿いてきて」
にやにやと楽しげに笑う孝弘に嫌な予感を覚えるが、負けたのは祐樹なので仕方がない。
「何これ?」
「下着」
「……わかった」
まあ下着くらい何でもいいかと、渡された小さな紙袋を受け取った。
そして現在、そのパッケージを開けた祐樹は困惑していた。不思議な形の下着で、穿き方がよくわからない。どこに足入れるんだ、これは?
パッケージのイラストを見直してどんな下着か理解した。これ男物なの? 疑問を感じながら穿いてみたらちゃんと前のほうがきちんと納まるような形になっていて、男性用であることは確かだった。
ていうか、孝弘はこれをどこで買ったんだ? あんまりこういう物を買うイメージがないので驚いた。
うわー、なんか色々不安……。
普段はボクサーショーツなので落ち着かない。
ここまでスカスカだとパンツの意味はないんじゃ? 鏡に映した後ろ姿はなんとも間抜けな気がするが、孝弘のリクエストだ。
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