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 それにその頃知り合ったゲイの友人と言うなら、恋人の交友関係で知り合ったほうがはるかに多かった。10歳も年上の初めての同性の恋人は、祐樹をあちこち連れて歩いてたくさんのことを教えてくれた。

 彼は祐樹をとても可愛がってくれて、恋愛って楽しくて嬉しくていいものだと祐樹は初めて実感した。

 後にその東雲とはやむを得ない事情で別れてしまったけれど、今思い出しても大人の彼からはとても大切にされた記憶が残っている。

 別れて以来音信不通だった東雲とは、思いがけないきっかけで大連赴任直前に会うことになり、7年ぶりに話ができた。妻と二人の子供に恵まれて、仕事も順調な彼は幸せそうに微笑んだ。

 孝弘の話をすると、祐樹にパートナーがいてほっとしたと安堵のため息をついていた。あの頃、この人が本当に好きだったなあとしみじみ思い、この恋愛がこうして穏やかな決着を迎えたことが素直に嬉しかった。

「そうなんだ。でも大学時代は彼氏がいたって言ったよな?」

 ちょうど東雲のことを思い出していたから、祐樹はうろたえながら返事をする。

「うん。その人は学生じゃなかったけど。…ていうか、そんな話したっけ?」

「その先輩って人が北京に来たあと倒れて病院つきそったりした時に。学生時代の話聞いた時に言ってた」

 大急ぎで記憶をたどって、そういうことがあったことを思い出した。研修中に祐樹が職場で倒れたときのことだ。北京生活のストレスや夏バテが重なって病院に運ばれたのだ。

 孝弘が病院に迎えに来て部屋まで送ってくれた。大澤の気持ちにこれっぽっちも気づかなかったことで落ち込んでいた祐樹は過去のあれこれを話して孝弘に慰められたことがあった。

 そうだ、あの時は孝弘とつき合うことになるなんて思わなかったから、かなり赤裸々な打明け話をしてしまった。だから孝弘が大澤のことや大学時代の恋人のことを知っているのだ。

 思い出したら強烈に羞恥がこみ上げて、祐樹は真っ赤になってうつむいた。今考えたら色々まずかったよな。

 まあしゃべってしまったことは今さらどうしようもないし、過去だから変えようもない。隠さなくてもいいんだと開き直るしかないだろう。孝弘はべつに気を悪くしているわけではないようだし。

「……もう忘れて」

「んー。普段はそんなこと忘れてるけど、でもあの頃の祐樹との思い出は大事にしまっておきたい感じだから、忘れないでおく」

 それを聞いて祐樹は顔を上げた。
 孝弘は思いがけず、やさしい目をして祐樹を見ていた。

 祐樹も同じだった。孝弘との思い出は祐樹の胸の奥にひっそりしまわれていて、時おり思い出しては切なくなったものだった。


「じゃあお互い様だね。おれもそう思ってたよ」
「そう思ってたって?」

「孝弘のことは大事な思い出で、胸の中にしまってて時々取り出してみる感じだった。いま何してるかな、まだ学生なのかな、もう社会人で仕事してるかなって」

「…ヤバい、なんか照れる」
 孝弘が困ったように眉を寄せる。

 照れた顔が珍しくて何となくじっと見てしまう。

「なんで急にそんなこと言いだしたの?」
 不思議だったので訊いてみたら「社内報見たから」と気まり悪げな返事があった。

「社内報?」
 確かに先週届いていて、祐樹もさらっと読んだが大澤に関する記事などなかったように思う。分析レポートなどは署名入りで載せてくれるが、そもそも孝弘は大澤の名前も知らないだろう。

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