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「え? 何の話?」
咄嗟にとぼけてしまったけれど、孝弘は話を引っ張った。
「ずっと前、北京研修の時に、学校の先輩で結婚決まったけど祐樹に会いに来た人いたよな」
もちろん覚えている。
大澤のことだ。
中高一貫校の先輩で同じ会社の先輩同僚となった大澤が突然、北京で研修中の祐樹を訪ねてきて「ずっと好きだった」と告白したのだ。
祐樹は大澤のことは頼りになる先輩としてしか見ていなかったし、大澤にはたいていいつも彼女がいた。4歳も年上で精神的に落ち着いた大澤に高校生だった祐樹はずいぶんと甘えて助けられたのだ。
努力で女子を好きになろうと頑張って、でも女子に興味を持てない祐樹の葛藤や苦しさを理解してくれて、ずっと側にいてくれた。祐樹の初めての同性セックスの相手でもあり、会社に入って再会してからはセフレめいた関係だったこともある。
同情あるいは友情の範囲が広いのだろうと祐樹は思っていたが、大澤にとってはずっと気になる存在で好きだったと言われたのだ。しかも大澤はロンドン赴任が決まっていて、婚約もしているという状況で。
だからその告白は祐樹とどうこうなりたいというものではなく、結婚前にあいまいだった気持ちにけりをつけに来たというもので、大澤はこれまでそうだったように祐樹には何も求めてこなかった。
ただ自分が納得するために祐樹に会いに来て、中国の現状に驚いたり文句を言ったりしながらも最後のデートを楽しんで、すっきりした顔で帰って行った。
「ああ、先輩ね。今はドイツ赴任中だよ。子供も生まれたって話は聞いてるけど、連絡してないから詳しくは知らない」
「そうなんだ。結婚生活がうまくいってるならよかったな」
「もともと先輩はゲイじゃないし。いいお父さんになってると思うよ」
話は終わったと思ったのに、孝弘はグラスにワインを追加してまだ質問を続けた。
「大学も一緒だったんだっけ?」
「同じ大学だけど、おれが入学した年に先輩は卒業したから、大学で会ったことはないんだ」
「あ、そっか。けっこう上だったっけ?」」
「おれが中1の時に高2だったからね」
「ふうん」
今日の孝弘は酔ってるんだろうか。
飲み慣れないワインが回ったとか?
こんな話題を持ち出すなんて大丈夫なのかと祐樹はちょっとひやひやする。でも口調は穏やかだし、顔色を見ても特に酔ったふうでもない。
「中高時代の祐樹、かわいかったんだろうな」
「まあね。女子みたいって言われてたよ」
「写真ないの?」
「持ってくるわけないでしょ」
「残念…。高校時代は?」
「急に背が伸びて、近くの女子高生に王子さまって言われて嫌だった」
孝弘が声を上げて笑う。中学時代のあだ名は姫だったことは言わないでおいた。言ったら爆笑するだろうけど。
「男子校だよな? モテた?」
「そんなわけないでしょ。男子校だからってそんなにゲイに出会わないって」
「そりゃそうか。大学では?」
「ゲイの友人が初めてできたのは大学だけど、、そんなに多くないよ」
自分の性指向に疑問を持って女子を好きになろうと努力して悩んで苦しかった中学高校時代とは違って、ゲイであることを認めた大学時代は楽だった。
大澤が言った通り、大学には色んな人がいた。中にはゲイもバイもいたけれど、もちろん少数だった。それでも祐樹にとっては貴重な友人になって、今もつき合いが続いている。
お互い寂しい時にセックスする仲だった友人もいるが、今はただの友人だ。
咄嗟にとぼけてしまったけれど、孝弘は話を引っ張った。
「ずっと前、北京研修の時に、学校の先輩で結婚決まったけど祐樹に会いに来た人いたよな」
もちろん覚えている。
大澤のことだ。
中高一貫校の先輩で同じ会社の先輩同僚となった大澤が突然、北京で研修中の祐樹を訪ねてきて「ずっと好きだった」と告白したのだ。
祐樹は大澤のことは頼りになる先輩としてしか見ていなかったし、大澤にはたいていいつも彼女がいた。4歳も年上で精神的に落ち着いた大澤に高校生だった祐樹はずいぶんと甘えて助けられたのだ。
努力で女子を好きになろうと頑張って、でも女子に興味を持てない祐樹の葛藤や苦しさを理解してくれて、ずっと側にいてくれた。祐樹の初めての同性セックスの相手でもあり、会社に入って再会してからはセフレめいた関係だったこともある。
同情あるいは友情の範囲が広いのだろうと祐樹は思っていたが、大澤にとってはずっと気になる存在で好きだったと言われたのだ。しかも大澤はロンドン赴任が決まっていて、婚約もしているという状況で。
だからその告白は祐樹とどうこうなりたいというものではなく、結婚前にあいまいだった気持ちにけりをつけに来たというもので、大澤はこれまでそうだったように祐樹には何も求めてこなかった。
ただ自分が納得するために祐樹に会いに来て、中国の現状に驚いたり文句を言ったりしながらも最後のデートを楽しんで、すっきりした顔で帰って行った。
「ああ、先輩ね。今はドイツ赴任中だよ。子供も生まれたって話は聞いてるけど、連絡してないから詳しくは知らない」
「そうなんだ。結婚生活がうまくいってるならよかったな」
「もともと先輩はゲイじゃないし。いいお父さんになってると思うよ」
話は終わったと思ったのに、孝弘はグラスにワインを追加してまだ質問を続けた。
「大学も一緒だったんだっけ?」
「同じ大学だけど、おれが入学した年に先輩は卒業したから、大学で会ったことはないんだ」
「あ、そっか。けっこう上だったっけ?」」
「おれが中1の時に高2だったからね」
「ふうん」
今日の孝弘は酔ってるんだろうか。
飲み慣れないワインが回ったとか?
こんな話題を持ち出すなんて大丈夫なのかと祐樹はちょっとひやひやする。でも口調は穏やかだし、顔色を見ても特に酔ったふうでもない。
「中高時代の祐樹、かわいかったんだろうな」
「まあね。女子みたいって言われてたよ」
「写真ないの?」
「持ってくるわけないでしょ」
「残念…。高校時代は?」
「急に背が伸びて、近くの女子高生に王子さまって言われて嫌だった」
孝弘が声を上げて笑う。中学時代のあだ名は姫だったことは言わないでおいた。言ったら爆笑するだろうけど。
「男子校だよな? モテた?」
「そんなわけないでしょ。男子校だからってそんなにゲイに出会わないって」
「そりゃそうか。大学では?」
「ゲイの友人が初めてできたのは大学だけど、、そんなに多くないよ」
自分の性指向に疑問を持って女子を好きになろうと努力して悩んで苦しかった中学高校時代とは違って、ゲイであることを認めた大学時代は楽だった。
大澤が言った通り、大学には色んな人がいた。中にはゲイもバイもいたけれど、もちろん少数だった。それでも祐樹にとっては貴重な友人になって、今もつき合いが続いている。
お互い寂しい時にセックスする仲だった友人もいるが、今はただの友人だ。
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