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「辣椒《ラージャオ》入れ過ぎたかも」
「喉痛い?」
「少し。でもうまいからつい入れ過ぎるんだよな」
テーブルに置いてあった唐辛子の調味料がやたらおいしかったので、ラベルを覚えておく。後でスーパーで買って帰ろう。
「次、どこ行く?」
「せっかくだから、ロシア街行ってみようかな」
「写真撮るにはいいかもな、ここから近いし」
「なんだかんだ言って、用事ないから行ったことないんだよね」
「俺もそうだよ」
ロシア街までは腹ごなしに歩くことにした。
ロシア街と言っても旧日本人街と同様で、現在ロシア人が住んでいるわけではなくロシア統治時代に造成された街だ。大連駅から10分も歩くと日本統治時代には日本橋と呼ばれていた勝利橋に着く。
「確かにちょっと東京の日本橋に似てるね」
橋を渡りながら祐樹が言う。
横から見ると二重橋の装飾の感じが似ていた。
そこからもうロシア統治時代の建築群が見えた。
「ロシア統治っていつだっけ、1900年代だよね?」
「うーん、俺もはっきり覚えてないな。確か1900年直前にロシアが租借したと思う」
1800年代の最後あたりにロシアが租借地となった覚えがある。その後、日露戦争を経て日本統治が始まったのは1905年のことだ。
「てことは、100年くらい前の建築物ってことだよね」
「だな。そう考えると歴史的な街なんだって感じがするよな」
「うん。開発区内に住んでると全然実感ないけどね」
「確かに。開発区内から出ないで生活してると中国感ってほとんどないしな」
最新のビル群の中で仕事をして生活区のマンションに帰るという生活なので、こうして街に出て来なければ大連にいることを実感することはない。
大通りをぶらぶら歩いて写真を数枚撮った。通りにはロシア商品の土産物屋やロシア料理店がいくつかあるが、売り子は中国人でざっと商品を見た限りロシア製というわけでもないようだ。
中国人や韓国人の観光客がマトリョーシカと毛皮の帽子を買っている。それを横目に大通りを進んでいくが、建築物以外にはさほど見るものもない感じだった。
「すごい観光地っていうわけでもないんだね」
「そうだな。別に特に何かあるわけじゃないし」
「建物見るだけだもんね。そんなに人来ないか」
「でも再開発するって噂も出てるよ」
「そうなんだ。洋風建築を保存しておこうって感じ?」
「たぶんな」
通りを進んだ一番奥にずいぶんと立派な建物がある。ロシアが建てたダーリニー市役所だ。
その後、日本統治時代には初代の大連市役所として使用され、南満州鉄道本社となり、のちにヤマトホテルなどいくつかの施設に使われた。
さらに大連市自然博物館として使用されていたがそれも今年移転して、現在は立入禁止となっている。
結局、写真を数枚撮っただけで勝利橋に戻り、そこから路面電車に乗った。大連駅に戻りながら、孝弘は古い車両内を眺めた。これも日本が満州時代に敷設したものだ。
「でもやっぱり大連はきれいな街だよね」
「そうだな。全体的にきれいなんだよな」
広州みたいにごちゃごちゃしていないし、北京ほどほこりっぽくないし、道幅も広くて街を走るバスの車両も新しい。
もっとも二人が乗っている路面電車はまだ旧型車両も走っている。旧型のレトロ感がいい味を出していて、欧風建築の残る通りを走っているとちょっと時代がいつなのか分からなく感じだった。
作者注:現在のロシア街は再開発されて観光地になっています。
「喉痛い?」
「少し。でもうまいからつい入れ過ぎるんだよな」
テーブルに置いてあった唐辛子の調味料がやたらおいしかったので、ラベルを覚えておく。後でスーパーで買って帰ろう。
「次、どこ行く?」
「せっかくだから、ロシア街行ってみようかな」
「写真撮るにはいいかもな、ここから近いし」
「なんだかんだ言って、用事ないから行ったことないんだよね」
「俺もそうだよ」
ロシア街までは腹ごなしに歩くことにした。
ロシア街と言っても旧日本人街と同様で、現在ロシア人が住んでいるわけではなくロシア統治時代に造成された街だ。大連駅から10分も歩くと日本統治時代には日本橋と呼ばれていた勝利橋に着く。
「確かにちょっと東京の日本橋に似てるね」
橋を渡りながら祐樹が言う。
横から見ると二重橋の装飾の感じが似ていた。
そこからもうロシア統治時代の建築群が見えた。
「ロシア統治っていつだっけ、1900年代だよね?」
「うーん、俺もはっきり覚えてないな。確か1900年直前にロシアが租借したと思う」
1800年代の最後あたりにロシアが租借地となった覚えがある。その後、日露戦争を経て日本統治が始まったのは1905年のことだ。
「てことは、100年くらい前の建築物ってことだよね」
「だな。そう考えると歴史的な街なんだって感じがするよな」
「うん。開発区内に住んでると全然実感ないけどね」
「確かに。開発区内から出ないで生活してると中国感ってほとんどないしな」
最新のビル群の中で仕事をして生活区のマンションに帰るという生活なので、こうして街に出て来なければ大連にいることを実感することはない。
大通りをぶらぶら歩いて写真を数枚撮った。通りにはロシア商品の土産物屋やロシア料理店がいくつかあるが、売り子は中国人でざっと商品を見た限りロシア製というわけでもないようだ。
中国人や韓国人の観光客がマトリョーシカと毛皮の帽子を買っている。それを横目に大通りを進んでいくが、建築物以外にはさほど見るものもない感じだった。
「すごい観光地っていうわけでもないんだね」
「そうだな。別に特に何かあるわけじゃないし」
「建物見るだけだもんね。そんなに人来ないか」
「でも再開発するって噂も出てるよ」
「そうなんだ。洋風建築を保存しておこうって感じ?」
「たぶんな」
通りを進んだ一番奥にずいぶんと立派な建物がある。ロシアが建てたダーリニー市役所だ。
その後、日本統治時代には初代の大連市役所として使用され、南満州鉄道本社となり、のちにヤマトホテルなどいくつかの施設に使われた。
さらに大連市自然博物館として使用されていたがそれも今年移転して、現在は立入禁止となっている。
結局、写真を数枚撮っただけで勝利橋に戻り、そこから路面電車に乗った。大連駅に戻りながら、孝弘は古い車両内を眺めた。これも日本が満州時代に敷設したものだ。
「でもやっぱり大連はきれいな街だよね」
「そうだな。全体的にきれいなんだよな」
広州みたいにごちゃごちゃしていないし、北京ほどほこりっぽくないし、道幅も広くて街を走るバスの車両も新しい。
もっとも二人が乗っている路面電車はまだ旧型車両も走っている。旧型のレトロ感がいい味を出していて、欧風建築の残る通りを走っているとちょっと時代がいつなのか分からなく感じだった。
作者注:現在のロシア街は再開発されて観光地になっています。
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