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「大連駅って上野駅がモデルなんだっけ?」
「そうなのか? 知らなかった」
孝弘が首を傾げると「昨日見た『地球の歩き方』にそう書いてあった」と祐樹が笑う。
「へえ。上野駅がどんなのだったか覚えてないんだけど」
駅舎を見ても上野と似ているか、孝弘にはわからなかった。
「おれも似てるかわからないけどね」
「駅には行っても、駅舎なんて見ないしな」
「だよね。とりあえず、中山広場《ヂョンシャングワンチャン》に行っていい?」
「いいよ。大連っていえばやっぱ中山広場だろ」
のんびり歩いて15分ほどの広場に向かう。
「日本統治時代の建物って保護されてるんだっけ?」
「全部じゃないけど有名な建物は歴史文化財になってたと思う」
「せっかくだからいくつか写真撮ろうかな。何だかんだ言ってそんなに行く機会もないし」
中山広場の周囲には、日本統治時代に建築された建物が多くある。祐樹は特に歴史に興味があるわけではないので、大連に住んでいると言ってもわざわざ満州時代の遺物を見に行ったことはない。
孝弘にしても、数年前、初めて大連を訪れた時にタクシーで何カ所か通りかかりに見て回っただけだ。建物自体は今も使用されていて、外観しか見ることができないものが多い。
「大連らしくていいんじゃね。大連賓館とか中国銀行とか」
「大連賓館って旧ヤマトホテルだよね?」
「そう。改装して営業してるな。俺は泊まったことないけど雰囲気いいって評判いいよ」
日本統治時代に建てたルネッサンス様式の建物は外観や内装を損ねないように客室などは改修されて、今もホテルとして使用されている。
そんな話をしているうちに広場に着いた。
中山広場は市内中心部の道路が放射状に延びる美しい作りで、日本統治、ロシア統治時代はそれぞれ大広場、ニコラヤフ広場と呼ばれていた。
周囲には日本統治時代に建築された欧風建築物が今も多く残っていて、ちょっと中国とは思えない雰囲気なのだ。
大連賓館前の横断歩道を渡って広場の中に移動する。
振り返って大連賓館を眺めた。周囲をぐるりと見回すと、大きなコロニアル様式の立派な建物が目に入る。
「やっぱこうして見るといいね。あっちは昔の市役所だよね?」
「そう」
大連賓館の道路を挟んで隣の中国工商銀行は元大連市役所だ。
「中国銀行は元は何だったの?」
広場を挟んで向かいのバロック様式の堂々とした建物が中国銀行だ。
「横浜銀行だっけ? 違うかな。忘れたけどとにかく昔も銀行だったはず」
「今見ても、コロニアル様式ってかっこいいね」
「そうだな。今の四角いビルとは雰囲気が違うよな。夜はライトアップしてるらしいけど」
「夜かあ…。だいぶ冷えそう」
「だな。写真にはそんなにきれいに写らないだろうから、もっと季節のいい時に見に来ようか」
誘われて嬉しいと祐樹はにこっと笑う。
こういうところが本当にかわいいと思う。
広場の中央に向かいながら、周辺の建物を何枚か撮っている。
「満州時代の特徴ある建物って言ったら、旧東本願寺だと思うけど、まあわざわざ見に行くこともないか…?」
「あ、ガイドブックの写真で見たよ。あれもなかなか綺麗と言うか、目立つよね」
「外観が特徴あるからな。でもべつに歴史的なものじゃなくても、市場とかトロリーバスとか普通の街の風景でもいいと思うけど」
「だよね。路上の風景とかが今の大連って感じでいいのかな。1年後にはまったく違うかもしれないし」
自転車の糖胡蘆《タンフール》売りを見ながら祐樹が呟いた。
「そうなのか? 知らなかった」
孝弘が首を傾げると「昨日見た『地球の歩き方』にそう書いてあった」と祐樹が笑う。
「へえ。上野駅がどんなのだったか覚えてないんだけど」
駅舎を見ても上野と似ているか、孝弘にはわからなかった。
「おれも似てるかわからないけどね」
「駅には行っても、駅舎なんて見ないしな」
「だよね。とりあえず、中山広場《ヂョンシャングワンチャン》に行っていい?」
「いいよ。大連っていえばやっぱ中山広場だろ」
のんびり歩いて15分ほどの広場に向かう。
「日本統治時代の建物って保護されてるんだっけ?」
「全部じゃないけど有名な建物は歴史文化財になってたと思う」
「せっかくだからいくつか写真撮ろうかな。何だかんだ言ってそんなに行く機会もないし」
中山広場の周囲には、日本統治時代に建築された建物が多くある。祐樹は特に歴史に興味があるわけではないので、大連に住んでいると言ってもわざわざ満州時代の遺物を見に行ったことはない。
孝弘にしても、数年前、初めて大連を訪れた時にタクシーで何カ所か通りかかりに見て回っただけだ。建物自体は今も使用されていて、外観しか見ることができないものが多い。
「大連らしくていいんじゃね。大連賓館とか中国銀行とか」
「大連賓館って旧ヤマトホテルだよね?」
「そう。改装して営業してるな。俺は泊まったことないけど雰囲気いいって評判いいよ」
日本統治時代に建てたルネッサンス様式の建物は外観や内装を損ねないように客室などは改修されて、今もホテルとして使用されている。
そんな話をしているうちに広場に着いた。
中山広場は市内中心部の道路が放射状に延びる美しい作りで、日本統治、ロシア統治時代はそれぞれ大広場、ニコラヤフ広場と呼ばれていた。
周囲には日本統治時代に建築された欧風建築物が今も多く残っていて、ちょっと中国とは思えない雰囲気なのだ。
大連賓館前の横断歩道を渡って広場の中に移動する。
振り返って大連賓館を眺めた。周囲をぐるりと見回すと、大きなコロニアル様式の立派な建物が目に入る。
「やっぱこうして見るといいね。あっちは昔の市役所だよね?」
「そう」
大連賓館の道路を挟んで隣の中国工商銀行は元大連市役所だ。
「中国銀行は元は何だったの?」
広場を挟んで向かいのバロック様式の堂々とした建物が中国銀行だ。
「横浜銀行だっけ? 違うかな。忘れたけどとにかく昔も銀行だったはず」
「今見ても、コロニアル様式ってかっこいいね」
「そうだな。今の四角いビルとは雰囲気が違うよな。夜はライトアップしてるらしいけど」
「夜かあ…。だいぶ冷えそう」
「だな。写真にはそんなにきれいに写らないだろうから、もっと季節のいい時に見に来ようか」
誘われて嬉しいと祐樹はにこっと笑う。
こういうところが本当にかわいいと思う。
広場の中央に向かいながら、周辺の建物を何枚か撮っている。
「満州時代の特徴ある建物って言ったら、旧東本願寺だと思うけど、まあわざわざ見に行くこともないか…?」
「あ、ガイドブックの写真で見たよ。あれもなかなか綺麗と言うか、目立つよね」
「外観が特徴あるからな。でもべつに歴史的なものじゃなくても、市場とかトロリーバスとか普通の街の風景でもいいと思うけど」
「だよね。路上の風景とかが今の大連って感じでいいのかな。1年後にはまったく違うかもしれないし」
自転車の糖胡蘆《タンフール》売りを見ながら祐樹が呟いた。
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