あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

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 最近の祐樹と孝弘の朝食はおおむね前夜の鍋の残りで作る雑炊やうどんだ。

 休日は二人で料理することもあるが、平日は疲れて帰ってきて食事の用意をする気になれず、寒くなったこともあり、すぐにできる簡単な鍋ということが増えたからだ。

 今朝はゆうべのミルフィーユ鍋の残りでごろごろ野菜とベーコンのチーズリゾットを孝弘が作ってくれた。孝弘の料理は基本をしっかり習ったせいか、とてもおいしい。きちんと素材を生かした感じがする。

 こういうアレンジ物を手早く作れるのがすごいと思う。昨日の鍋は祐樹が用意したけれど、自分ではこれは作れない。起きてからほんの15分でリゾットができ上がったのだ。

「これ、すごくおいしい。鍋の残りとは思えない」

 パルメザンチーズと黒胡椒をたっぷりかけたリゾットは、ブロッコリーや人参やトマトが色鮮やかで朝でもしっかり食べられた。

 これだけでは昼までもたないので、ゆうべから煮込んでいた骨付き鶏肉の煮込みも一緒に食べる。昆布と塩だけであっさり煮込んだ鶏肉は箸でほろりと身が外れるくらい柔らかい。

「違うって。鍋の残りだから出る味なんだ。昨日の肉や野菜の出汁がいっぱい出てるから」
「そうなんだ。でもおれが作ってもこんな味にならないしな」

 熱いリゾットを食べて、ほこほことお腹が温まる。

「夜は魚介にしようか」

 祐樹が食後のコーヒーを淹れていると、孝弘が手帳を確認して言う。今日は早く上がれるらしい。

「いいね。前に作ってくれた、魚介のスープみたいなのおいしかった」
「ん? どんなの?」

「オリーブオイルで魚とか貝の炒め煮みたいな感じのやつ」
「ああ。アクアパッツア。簡単だよ」

「そう? あれ食べたい」
「じゃあそうしよう。アサリと白身魚がいいかな」

 孝弘が考える顔つきで湯気の立つマグカップを受け取った。



 祐樹が仕事から帰ってきたら、孝弘がキッチンで何か煮込んでいた。ふわふわとおいしい匂いの空気に包まれる。

「お帰り。もうちょっとかかるよ」

 濃いえんじ色のエプロンは祐樹が見つけて買ったものだ。紺の部屋着にえんじ色のエプロン姿の孝弘は、昼間見ているスーツ姿とは別人のようだ。

「ただいま。何か手伝う?」
「いや、大丈夫」

 着替えてリビングに戻ったら、オリーブオイルとニンニクのいい匂いがしていた。

「見ててもいい?」
「いいよ」

 チーズとトマトをスライスしてハムとキュウリの入ったガラス皿に乗せてドレッシングをかけた。孝弘が一切れつまんで味見をして、五星《ウーシン》ビールを飲む。

 料理しながら途中でつまみ食いして飲んでいることがよくあるのだ。

 祐樹もハイネケンを出してきて、そこで立ったまま乾杯した。作ったばかりのチーズとトマトをあーんしてもらってにっこりする。イタリアンドレッシングのピリッとした感じがよく合った。

「できあがるまで待てばいいんだけど、つい飲んじゃうんだよな」
「つまみ的な物をつくるからじゃない? 鍋だとそうはいかないでしょ」

「確かに」

 冬でもビール派の孝弘は常に何種類かのビールをストックしている。日本製にはこだわらない。口当たりの軽いビールが好きだから、海外のビールが好みに合うようだ。


 深めのフライパンの中にはもうアクアパッツァができていて、フライパンごとテーブルに運んで取っ手を外せばもう夕食の準備はでき上がりだ。バゲットを焼いて皿に盛る。

 テレビでは日本の衛星放送がカニ漁の解禁を伝えている。11月の日本はカニの最盛期に入るということで競りの様子と大きなタラバガニが画面いっぱいに映し出された。
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