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「そう言えば、孝弘って黄色いお店は結構行くの?」
「は? なに急に」

「こないだ青木さんと話してたから」

 セックスの後のまったりとした空気の中、何となく気になってやっぱり訊いてしまった。しっとりと肌を密着させている今なら訊ける気がしたからだ。

 日常の中で言い出したら責めるみたいな感じになりそうで、業務の一環なのにそんなふうに言いたくなくて。でも少し気にはなっていた。

「ああ、あれ。アテンドすることはあるけど、ぶっちゃけあの手の店でエッチしたことないよ」

 孝弘は祐樹の髪を撫でながら、ごくあっさり言う。嘘をついているようには見えないが、本当だろうか。

 いや別に過去のことを責めるつもりはないのだけれど。そもそも責めるようなことでもないし。自分だってセフレのような友人が何人かいたりした訳だし、…仕事で行く店とそれとはまた違うだろうけど。

 こんな言い訳する時点で、実はかなり気にしてる?

「そうなの?」

「うん。なんか金払ってまでしてもらうのは気が引けるっていうか、おねーさんたちが仕事でしてくれると思うと「お疲れ様です」って感じでその気になれないっていうか」

「…そうなんだ」

 そういうものだろうか。ノンケの男はかわいい女の子が奉仕してくれるとなったら、受け入れるものかと思っていた。大好物ではなくても料理が出されたら一応箸はつけようか的な?

 例えば逆の立場で、自分が男の子にサービスされる店に行ったとして…、据え膳が並んでたら…うーん? 祐樹は心の中で首を傾げた。

 知らない男に抱かれたくないな。抱けるかと言われても微妙だ。
 いや、そもそもこの設定が間違っているのか? ゲイ向けの風俗があることは知っているが、祐樹は行ったことがないし、行きたいと思ったこともない。


「そもそも好きじゃない相手としてもしょうがないし。つーか、したくない」
「それはわかる」

「心配してた?」
「心配っていうか…、どうなのかなって……」

 祐樹の強がりを孝弘は読み取ったようだ。
 にやりと笑うと、うれしいと耳元にキスして囁いた。

「ホントは気にしてたんだろ?」
「…うん」

 今度は素直にうなずいたら、孝弘が額にかるく口づけた。まだ落ち着き切っていない皮膚がざわざわと音をたてたみたいだ。孝弘の手に撫でられて気持ちよくてうっとりする。

「かわいいなあ。風俗嬢なんかに興味ないから」
「わかってるよ」

「マジでしないから」
「うん、よかった」

「そう言えば、こっちってゲイ向けの店ってあるの?」
 ふと思いついて尋ねたら、孝弘がえ?という顔をした。きょとんとした後、首をかしげる。

「えー、どうだろ? たぶんあるだろうけど俺は知らないな」
 やり手のコーディネーターもさすがにそこまでリサーチしてないようだ。

「あっても祐樹は行ったらダメだから」
 真剣な顔で言うのがおかしい。

 接待でそんな店行くわけないだろうに。いや、プライベートのほうか、この言い方は。ますますないって。

「行かないよ。興味ないし」
「祐樹、絶対モテるんだろーな」

「行かないってば。ただあるのかなって思っただけ」
「ああ、でも噂は聞いたことあるな」

「なんの?」
「北京の話だけどさ、いわゆるハッテン場っていうか、そういう人たちが集まる公園があるって」

「へえ、やっぱあるんだ。…どこ?」
「ん? 気になる?」

 そんなことを言いながらちゅ、ちゅと鎖骨から首筋にキスが降りてくる。

「いや。行きたいとかじゃないから」
「でも知りたいんだ」

 からかうように孝弘の言った公園は、王府井や故宮からもほど近い大きな公園で意外な感じがした。

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