あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

文字の大きさ
上 下
18 / 95

3-6

しおりを挟む
 その件で先週から少しぎくしゃくしていた。こうして謝りに来ることが中国人の彼にとってかなり面子に関わることだと祐樹も理解している。

「誤解が解けたんなら、もういいよ」
 祐樹が人当たりのいい笑顔を見せると、張秀高はほっとしたように頷いて席を立った。

「今日、誘ってもらえて嬉しかったです」
 そう言うとソファに移動してカラオケに混ざるようだ。

 ふと視線を感じて顔を上げると、孝弘が優しい目をして向かいの席から祐樹を見ていた。それでピンときた。

 もしかして、張秀高に何か言ってくれた? 誕生日誘われたなら高橋さんは怒ってないよとか、この席でさらっと謝るといいよとか? 

 孝弘は何も言わず、ただビールのグラスを軽く上げてごくごく飲み干した。

「高橋さん、何か歌ってくださいよ」
 カラオケに誘われて、祐樹も微笑んで立ちあがった。

 大連に来てから「そのうち絶対歌わされるから仕入れとくといい」と、孝弘が何曲か歌いやすい流行歌を教えてくれていた。

 広州でも何度もカラオケにはつき合ったが、あちらでは広東語がほとんどだったので、北京語の歌はあまり知らなかった。それに日本語の曲も多かったので、日本語で済ませることも多かった。

「こっちの曲って1番も2番も歌詞同じ曲多いよね?」
「そうだな、そういうの結構あるよな」

 3番までまったく同じという歌も中にはある。

「最初知らなくて、カラオケ行って歌詞見てびっくりした」
「違う歌詞の曲も最近、増えたてきたかも」

「そうなんだ。カラオケってよく行くの?」
「まあまあかな。学生の時は留学生仲間で遊びに行くこともあったけど、仕事するようになってからはレストランとかバーのカラオケがほとんどだな」

 食事や酒の席で、ついでにカラオケもという場面が多いのだ。

「地声が大きいからかな、歌うまい人多いよね」
「それは思う。祐樹、中国のロックとかポップス聞いたことある? 結構いい曲あるよ」

「へえ? 店とかで流れてるのは聞くけど、歌手の名前とかは知らないな」
「そうか。じゃあ、こういう曲、覚えとくといいかも」

「中国人受けする?」
「ああ、今すごく流行ってる曲だから」

 そんなことを言いながら孝弘が教えてくれたうちの一曲を入力した。

 
 祐樹が入れた曲のイントロが流れると「おおー」と中国人スタッフから驚きの声が上がって一気に盛り上がった。

 なるほど、と思う。こうやって盛り上げて、コミュニケーションが円滑になっていくのか。うまく歌詞が読めなくて祐樹が詰まるとみんなが一緒に歌ってくれて、和気あいあいとした雰囲気で曲が終わった。

「高橋さん、こういう曲聞いてるんですか?」
「上野くんが教えてくれたんだ」

「そうなんだ。上野さん、歌もドラマも色々知ってますよね」

 中国人スタッフとそんな話をしているのか。そう言えば流行の歌手やドラマなんかも孝弘はよくチェックしている。

 話題つくりなのか中国語の勉強なのか、単なる趣味なのか。部屋で一緒に過ごすから、つられて祐樹も最近見ているドラマがある。日本と違ってほとんどが30話以上、長い物なら200話くらいあるのでかなり見応えがある。

「こっちのドラマ、展開が早いから面白いね」
「展開が早い?」

「週に2回も放送するでしょ、しかも一度に2話ずつとか」
「? 日本は違いますか?」

「週に1回1話ずつが基本だよ」
「それじゃあ話を忘れませんか?」

「話と言うより見るのを忘れる」

 祐樹の言葉にみんなが笑うが、冗談を言ったわけでもなかった。そんなにドラマ好きではないせいか、途中で見忘れてしまうことがほとんどで最後まで見たのがあったかどうかも怪しい。 

 その後は日本のドラマやアニメの話になり、日系企業で働くくらいだからみんなよく知っていて、誕生会は楽しく盛り上がって解散した。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕

hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。 それは容姿にも性格にも表れていた。 なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。 一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。 僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか? ★BL&R18です。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

処理中です...