あの日、北京の街角で4 大連デイズ

ゆまは なお

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 その件で先週から少しぎくしゃくしていた。こうして謝りに来ることが中国人の彼にとってかなり面子に関わることだと祐樹も理解している。

「誤解が解けたんなら、もういいよ」
 祐樹が人当たりのいい笑顔を見せると、張秀高はほっとしたように頷いて席を立った。

「今日、誘ってもらえて嬉しかったです」
 そう言うとソファに移動してカラオケに混ざるようだ。

 ふと視線を感じて顔を上げると、孝弘が優しい目をして向かいの席から祐樹を見ていた。それでピンときた。

 もしかして、張秀高に何か言ってくれた? 誕生日誘われたなら高橋さんは怒ってないよとか、この席でさらっと謝るといいよとか? 

 孝弘は何も言わず、ただビールのグラスを軽く上げてごくごく飲み干した。

「高橋さん、何か歌ってくださいよ」
 カラオケに誘われて、祐樹も微笑んで立ちあがった。

 大連に来てから「そのうち絶対歌わされるから仕入れとくといい」と、孝弘が何曲か歌いやすい流行歌を教えてくれていた。

 広州でも何度もカラオケにはつき合ったが、あちらでは広東語がほとんどだったので、北京語の歌はあまり知らなかった。それに日本語の曲も多かったので、日本語で済ませることも多かった。

「こっちの曲って1番も2番も歌詞同じ曲多いよね?」
「そうだな、そういうの結構あるよな」

 3番までまったく同じという歌も中にはある。

「最初知らなくて、カラオケ行って歌詞見てびっくりした」
「違う歌詞の曲も最近、増えたてきたかも」

「そうなんだ。カラオケってよく行くの?」
「まあまあかな。学生の時は留学生仲間で遊びに行くこともあったけど、仕事するようになってからはレストランとかバーのカラオケがほとんどだな」

 食事や酒の席で、ついでにカラオケもという場面が多いのだ。

「地声が大きいからかな、歌うまい人多いよね」
「それは思う。祐樹、中国のロックとかポップス聞いたことある? 結構いい曲あるよ」

「へえ? 店とかで流れてるのは聞くけど、歌手の名前とかは知らないな」
「そうか。じゃあ、こういう曲、覚えとくといいかも」

「中国人受けする?」
「ああ、今すごく流行ってる曲だから」

 そんなことを言いながら孝弘が教えてくれたうちの一曲を入力した。

 
 祐樹が入れた曲のイントロが流れると「おおー」と中国人スタッフから驚きの声が上がって一気に盛り上がった。

 なるほど、と思う。こうやって盛り上げて、コミュニケーションが円滑になっていくのか。うまく歌詞が読めなくて祐樹が詰まるとみんなが一緒に歌ってくれて、和気あいあいとした雰囲気で曲が終わった。

「高橋さん、こういう曲聞いてるんですか?」
「上野くんが教えてくれたんだ」

「そうなんだ。上野さん、歌もドラマも色々知ってますよね」

 中国人スタッフとそんな話をしているのか。そう言えば流行の歌手やドラマなんかも孝弘はよくチェックしている。

 話題つくりなのか中国語の勉強なのか、単なる趣味なのか。部屋で一緒に過ごすから、つられて祐樹も最近見ているドラマがある。日本と違ってほとんどが30話以上、長い物なら200話くらいあるのでかなり見応えがある。

「こっちのドラマ、展開が早いから面白いね」
「展開が早い?」

「週に2回も放送するでしょ、しかも一度に2話ずつとか」
「? 日本は違いますか?」

「週に1回1話ずつが基本だよ」
「それじゃあ話を忘れませんか?」

「話と言うより見るのを忘れる」

 祐樹の言葉にみんなが笑うが、冗談を言ったわけでもなかった。そんなにドラマ好きではないせいか、途中で見忘れてしまうことがほとんどで最後まで見たのがあったかどうかも怪しい。 

 その後は日本のドラマやアニメの話になり、日系企業で働くくらいだからみんなよく知っていて、誕生会は楽しく盛り上がって解散した。

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