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ここから王宮までの道で盗賊が襲ってくるはず。
襲撃は夜だと予想しているが、もし昼間なら少々面倒だ。か弱い貴族の姫君が盗賊を倒すのもまずいだろう。
その場合は一旦、攫われて隙を見て逃げるしかないか。攫われた時点で自分の役目は終わりだ。とっとと里に帰ってしまえばいい。
いくらか緊張していたがそんなことは起こらず、二日間の旅は平穏に終わって樺国の王宮に着いてしまった。
どうなってるんだ? 計画変更されたのか?
内心で訝しく思っていたら真相がわかった。
「樺国は物騒だと聞いていましたが、昨日は盗賊がこの馬車を狙って林に潜んでいたそうですわ。無事に到着できて幸いでしたわね」
祥永暗殺計画など何も知らない侍女が震えながらそう教えて、祥永は「まあ、盗賊がいたのですか?」と怯えた顔をしてみせた。
「ええ。ですけど樺国の護衛に殺されたそうですわ」
ということは、このまま結婚することになる? どうしたものかな。
祥永は少しばかり思案したものの、ここで逃げ出すわけにもいかない。
せっかくだから、国主の顔を拝んでおくか。
気軽な気持ちでそう思い、馬車を降りた。
樺国の王宮は山を切り開いて建てられている。瑠璃瓦が美しく、いくつもの建物が階段と渡り廊下で繋がっており、その屋根が連なる様がなんとも風情があって、到着した一行は王宮の予想外の優美さに驚かされた。
こんな建物を建てる技術を持っているのか。建築物や装飾を見る限り、決して山中に住む蛮族などではないと思い知る。
到着の挨拶のために案内された拝謁殿に国主と側近数名が待っていた。山中にある樺国の正装は長袍ではなく、立て襟の短袍に長跨(ちょうこ)(長ズボン)らしい。その上にひざ丈の上衣をまとっている。
国主は正面の王座にゆったりと座り、祥永を見ているようだ。蓋頭(がいとう)(花嫁のかぶる薄絹)を被っている祥永には彼の顔ははっきりとは見えない。
「遠路はるばるようこそお越し下さった。樺国の国主、虎征という。これまでとは暮らしが違って戸惑うこともあるだろうが、こちらの華語を話せる侍女をつけますから何でもお申しつけください」
虎征が話したのは意外にも流暢な華語だった。はきはきとした話し方に落ち着いた声。まだ二十二歳とは思えないほどの覇気が声からも態度からも感じられた。
「劉祥永(りゅうしょうえい)と申します。ご配慮に感謝いたします。どうぞよろしくお導き下さいませ」
その後はその場にいる者を紹介されて最初の挨拶は終わった。
一行は離宮に案内されたが、落ち着く間もなく祥永の部屋に青ざめた顔の文官がやってきた。彼がこの旅の責任者であり、今後は劉家の代表として祥永を支える側近となる。
「どうするのだ? 結婚式は明日だぞ」
姫が男とわかったらどんな事態になるかと文官は部屋をウロウロと歩き回った。
「ここまで来て結婚するしかないでしょう。今のうちに逃げたほうがいいのでは?」
立ち止まった文官は祥永の顔をまじまじと見て、偽物とはいえ姫を一人で放り出すわけにはいかないと側に残ると言った。
やれやれ、本当はいなくなってくれたほうがよかったのに。自分一人なら何とでもなるんだけどな。まあいいか。成り行き次第だ。
祥永は「では結婚式のことは私に任せて下さいね」と平然と告げた。
襲撃は夜だと予想しているが、もし昼間なら少々面倒だ。か弱い貴族の姫君が盗賊を倒すのもまずいだろう。
その場合は一旦、攫われて隙を見て逃げるしかないか。攫われた時点で自分の役目は終わりだ。とっとと里に帰ってしまえばいい。
いくらか緊張していたがそんなことは起こらず、二日間の旅は平穏に終わって樺国の王宮に着いてしまった。
どうなってるんだ? 計画変更されたのか?
内心で訝しく思っていたら真相がわかった。
「樺国は物騒だと聞いていましたが、昨日は盗賊がこの馬車を狙って林に潜んでいたそうですわ。無事に到着できて幸いでしたわね」
祥永暗殺計画など何も知らない侍女が震えながらそう教えて、祥永は「まあ、盗賊がいたのですか?」と怯えた顔をしてみせた。
「ええ。ですけど樺国の護衛に殺されたそうですわ」
ということは、このまま結婚することになる? どうしたものかな。
祥永は少しばかり思案したものの、ここで逃げ出すわけにもいかない。
せっかくだから、国主の顔を拝んでおくか。
気軽な気持ちでそう思い、馬車を降りた。
樺国の王宮は山を切り開いて建てられている。瑠璃瓦が美しく、いくつもの建物が階段と渡り廊下で繋がっており、その屋根が連なる様がなんとも風情があって、到着した一行は王宮の予想外の優美さに驚かされた。
こんな建物を建てる技術を持っているのか。建築物や装飾を見る限り、決して山中に住む蛮族などではないと思い知る。
到着の挨拶のために案内された拝謁殿に国主と側近数名が待っていた。山中にある樺国の正装は長袍ではなく、立て襟の短袍に長跨(ちょうこ)(長ズボン)らしい。その上にひざ丈の上衣をまとっている。
国主は正面の王座にゆったりと座り、祥永を見ているようだ。蓋頭(がいとう)(花嫁のかぶる薄絹)を被っている祥永には彼の顔ははっきりとは見えない。
「遠路はるばるようこそお越し下さった。樺国の国主、虎征という。これまでとは暮らしが違って戸惑うこともあるだろうが、こちらの華語を話せる侍女をつけますから何でもお申しつけください」
虎征が話したのは意外にも流暢な華語だった。はきはきとした話し方に落ち着いた声。まだ二十二歳とは思えないほどの覇気が声からも態度からも感じられた。
「劉祥永(りゅうしょうえい)と申します。ご配慮に感謝いたします。どうぞよろしくお導き下さいませ」
その後はその場にいる者を紹介されて最初の挨拶は終わった。
一行は離宮に案内されたが、落ち着く間もなく祥永の部屋に青ざめた顔の文官がやってきた。彼がこの旅の責任者であり、今後は劉家の代表として祥永を支える側近となる。
「どうするのだ? 結婚式は明日だぞ」
姫が男とわかったらどんな事態になるかと文官は部屋をウロウロと歩き回った。
「ここまで来て結婚するしかないでしょう。今のうちに逃げたほうがいいのでは?」
立ち止まった文官は祥永の顔をまじまじと見て、偽物とはいえ姫を一人で放り出すわけにはいかないと側に残ると言った。
やれやれ、本当はいなくなってくれたほうがよかったのに。自分一人なら何とでもなるんだけどな。まあいいか。成り行き次第だ。
祥永は「では結婚式のことは私に任せて下さいね」と平然と告げた。
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