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第7章:運命
やきもち01
しおりを挟む「お前はどうしていつも……!」
まずい。これはかなりご立腹だぞ。
かくなるうえは泣き落としだ!
「うえええん、ごめんなさい~! でも僕怖かったよ~!」
予想を裏切らずに、吊り上がっていた眦がだんだんとさがっていく。
「…………くそ」
「へへ」
「はあ……わざとだと分かっているのに敵わないな」
廊下のど真ん中。
豪奢な飾りで溢れた空間に相応しくない嘘泣きを披露して、目の前の雄っぱい…いや胸に飛び込む。
ノクティスは悔しそうに悪態をつきながらも、僕をぎゅうっと力強く抱きしめてくれた。
「僕沢山怖い思いしたからもっと甘えてもいい?」
「どの口がそんな嘘を言うんだ? 意気揚々とあの女をからかっていたのを見てたぞ」
「えへへ、じゃあ僕が口喧嘩も強いってわかった?」
「そういう問題じゃないだろ」
溜息をつきながら、僕の頬をつねってくる。
というかつねるというよりも、こねていると言ったほうが正しいかもしれない。
「僕のほっぺたこねるのもいいけど、早く帰ってふたりきりになろ?」
僕の誘いにノクティスは「そうだな」と笑い、手を取り歩き出す。
二人仲良く馬車が待つ場所へと向かうと、思わぬ人が待っていた。
「どこかに寄り道でもされていましたか?」
妖艶に微笑む女性は——あの公爵夫人だった。
咄嗟にノクティスと公爵夫人の間に体を滑り込ませる。
僕もだけど、同じ童貞であるノクティスには、この色気は刺激が強すぎるからだ……!
「あら、そんなに警戒しないでくださいまし? お礼を伝えに来ただけですから」
「お礼ですか?」
「ええ。つまらないかと思えば王子のおかげで楽しい時間を過ごすことができました」
公爵夫人は赤い唇を上品に上げると、「うんざりしていたところでしたので」と冷たい声で言う。
「それから一つご忠告も。さきほど王子に失礼なふるまいをしていた彼女とは面識があるようですが、最近いたるところのお茶会にでては王子の話をしているそうですわ」
「ああ、やっぱりそうなんですね」
「あら、お気づきになられていたのですね」
彼女がお茶会に呼ばれたのは、本人の前で悪い噂話をして貶める役割があったからなのだろう。
だが、それがうまくいかなくて、焦ってあんな行動に出たんだろうな。
「とはいえご忠告ありがとうございます。それにしてもどうしてこのようなことを?」
「あら、鈍感なふりをしているわけではないですわよね?」
公爵夫人は首を傾げたあと、僕の方に顔を近づけて囁く。
「大公閣下よりも王子のほうが可愛いでしょう?」
「!?」
「警戒なさらないでくださいませ。私の好みは王子のような儚くてお美しい方ですのよ」
濡れたような色香のある声音にビビビッと尻尾の毛が逆立つ。
そのうえ目前には強調された豊満な胸……
僕は前世でいうなら健全な男子大学生だ。
いままで浴びたことのない女性だけが持つ柔らかな色気に、思わず目が釘つけになるが。
「ジョシュア」
現実に引き戻すように背後からノクティスの腕が僕を抱きしめた。
そして見せつけるかのように、僕の指にするりとノクティスの指が絡まる。
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