悪役王子に転生したので推しを幸せにします

あじ/Jio

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第7章:運命

お茶会03

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「とはいえ心配もあろう? ジョシュア王子も耳にしたことがあるだろ、南の王国でおきた王室の醜態を」

ぎらりとした双眸が僕を見据える。
ガキが調子にのるなと言いたげに。

すると皇太后派のマダムたちが、意図をくみ取ったように追撃した。

「南の王国と言えば……ああ、あの事件ですわね。現国王が元平民の男爵令嬢と恋に落ちて周囲の反対を押し切り結婚したものの、結局一年後には熱も冷めてしまったとか」
「酷い話ですわね。愛を邪魔する者は何人たりとも許さない、とおっしゃっていたのでしょう? でも結末は、それだけ愛した人を冷遇して、今は第二妃として迎え入れた侯爵令嬢と仲睦まじいとか…」
「結局は愛なんて偶像でしかないのですわ。あ、けれどジョシュア王子はお気になさらずにね?」

カーーーーっ!
本当にねちねちしていて嫌になっちゃうよ。

実際のところ、「好き」だからと言って「愛している」わけではない。
「愛している」からと言って、「永遠」につづくものでもない。

まさに少し前の僕が恐れていた現実だ。
だが、あの日のノクティスの言葉を思い返したら……

「じょ、ジョシュア王子? どうかされたのですか…?」
「へへ、なんでもないですぅ」

にやけが止まらない僕の様子に、周囲がどん引きしている。
顔をしかめるどころかニヤニヤと緩み切った表情を浮かべて鼻息あらく興奮しているのだから、そりゃそういう目で見られても仕方ない。

だが、ノクティスにあんな熱烈な言葉をもらった今の僕に怖いものなどなかった。

周囲が困惑しているなか、痺れを切らしたのか皇太后がカップをソーサーに置き、分かりやすく溜息を零す。

空気が切り替わると、他の夫人が助かったと言わんばかりに「どうされました?」と声をかけた。

「すまぬ。最近困ったこと……いやどうにも理解が及ばぬことがあってな」
「理解……でございますか。皇太后様がよろしければ私達にお話ししてくださいませ」
「そなたの優しさに感謝するぞ、伯爵夫人。そうだな、ここは皆に聞いてもらうのがよいか」

白々しい演技だな。
さっさと言えばいいことを。

こういう大人にはならないようにしよう、と胸中で思案した時、皇太后がこちらに視線を寄こす。

「ジョシュア王子もぜひ意見を聞かせてくれないか」
「はい、僕でよければ」

その瞬間。
狙った獲物が罠にかかったとでも言いたげに、皇太后の瞳が一すっと細まる。

「つい最近のことなのだが、多くのものを持っていてもなお他所のものにまで手を出そうとする、野蛮な者がおるのだ」
「まあ! なんて下品な方なのでしょうか」
「そう正直に言うでない。可哀想ではないか」
「おほほ、失礼いたしました。あまりに浅ましくてつい……」
「よい気にするな。して、我もどうにか理解しようと思うのだが分からなくてな。なぜ己に与えられたものだけで満足せず、他所の——よりによって捨てられたものまで、自分のものにしようとするのか」

皇太后は最後に「執着とは実に恐ろしいものよ……。ジョシュア王子はどう思う?」と尋ねた。

きっと周囲も気づいただろう。
手を出そうとする野蛮な者とは僕のことであり、捨てれられたものがノクティスを指す隠語であることに。

僕はにこりと笑い、僕をバカにしたように見下げてくる者達をぐるりと見渡し口を開いた。

「話を聞いてましたが僕にも理解ができませんでした」
「あらあら、ジョシュア王子殿下には少し難しかったようですね」

小さなさざめきのような笑い声が、場を満たす。
皇太后もまた「すまなかったな。まだ子供であると気づけなかった我の落ち度だ」と周囲をたしなめた。

僕は気に留めず話を続けた。

「そうなんです。僕はまだ成人したばかりの子供だから理解ができないんです。なぜ不要なものを拾われたぐらいでそこまで気にかけるのかな、と……」

とたんに、その場を支配していた薄気味悪い笑い声が止まる。
変わりに広がったのは困惑と動揺だった。

「だってそうでしょう? 要らないから捨てたのに、どうしてその捨てたものにまで気をやるのですか? 僕は多くのものを持っているから捨てたものまでいちいち覚えていないんです。だから……」

——そんな小さなことを気にするなんてよっぽど持ち物が少ない可哀想な人なのかな?

にこりと微笑む。
僕の言葉を最後に静寂が広がった。

さきほどまでの偽りに満ちた穏やかな空気はどこへ行ってしまったのか。

それにしても拍子抜けだ。もっと苛烈な舌戦いを想像していたのに。
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