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第7章:運命

お茶会02

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お茶会は、皇太后の宮でも最も美しいと噂の宮殿で行われた。

繊細なレースが敷かれた机の上には、美しいデザインが青色で描かれたティーカップや、美味しそうな洋菓子が並んでいる。
そんなテーブルを囲むのは、見るだけでも楽しい鮮やかなドレスを着た貴婦人方。
色とりどりのドレスはまるで大輪の花々のようで、その場を華やかに彩っていた。

お茶会の場には僕を含めて10人の招待客が居た。
初めて見る顔ぶりのなかに二人だけ見覚えのある人物を見つける。

一人は舞踏会の日に見た、絵に描いたようなぼんっきゅッぼんっと色気溢れる公爵夫人。
サナ皇后から、彼女は中立派だと聞いていたけど、招待に応じているということは皇太后よりなのだろうか?

それからもう一人は、きつそうな顔立ちの令嬢だ。
どこかで見た気がするのだが思い出せない。
しかもあまりいい印象ではないようで、僕を見るなり令嬢は怯えた表情を浮かべる。
ここに招待された客人は殆どが30代ぐらいの、上品で落ち着いたマダムたちだ。
一方、ご令嬢は20代前半ほどで、なんだかこの場にあっていなくて浮いて見えた。

「お招きいただき感謝します」
「よく来てくれた。歓迎するぞジョシュア王子」

皇太后に挨拶をして、自然に参加者を見渡して微笑む。

「初めまして。皆さんとてもお美しいドレスですね。眩しいと感じたのは夏の日差しのせいかと思いましたが、皆さんの美しさに思わず見惚れてしまったからのようですね」

賛辞を口にすると、頬を赤く染める者、まんざらでもないと態度を軟化させる者、警戒を強める者…と。
今日気をつけるべき相手が誰なのかおおよその目星がつく。
するりと細められた瞳も、扇子で隠された優雅な微笑みも、すべては内に秘めた本音を隠すための防具であることを知っている。
僕が皇太后の右隣に座ると、お茶会は和やかに進められた。
侍女がカップに紅茶を注いでいくと、皇太后が泰然とした口調で紅茶の説明を始めた。

「今日の紅茶は東の小国よりわざわざ仕入れた特別なものだ。とても珍しいゆえ、手にすることができるのはほんの一握りという。ジョシュア王子の口に合うといいのだが」
「ありがとうございます。楽しみです」

皇太后の印象と言えば、おおむね原作どおりだった。
雰囲気はどっしりとしていて隙がなく、薄いオレンジ色の瞳は鷲のように鋭くて、気位の高さを感じさせた。
それより、さすがに毒とかは入ってないよね…?
こっそりと浄化魔法をかけて、恐る恐るカップに口をつけようとした時。
マダムの一人が「そういえば、ジョシュア王子おめでとうございます」と言ってきた。
まさにナイスタイミングである。おかげで紅茶を飲まずに済んだ。

「ベルデ大公とのお噂を聞きましたわ。婚前ではありますが、若々しいお話に聞いていて胸がくすぐったくなりました」
「ほんとうですわね。男女の場合はなかなかできることではありませんもの……あ、失礼なことを。勘違いなさらないでくださいませ。同性婚について否定的な意見をもっているわけではありませんのよ」
「そうですわジョシュア王子。お気になさらないでください。それより聞きまして?」

最初はゆったりとした談笑から。
しかし、小鳥のような柔らかな笑い声は、徐々にターゲットに向かい鋭い刃に変わっていく。
案の定、僕に攻撃をしかけてきたのは先ほど賛辞を述べた時に眉をしかめた面々だ。

「皆さん優しいんですね……」

感動したように大げさに眉をハの字に下げて礼を述べる。
僕はそのまま話を続けた。

「でも僕は大丈夫です! ベルデ大公もとっても僕に優しくしてくれますし。……それに好きな人と一緒になれるなんて奇跡のようなものですから皆さんとこの幸せを分け合いたいぐらいで」

ここでわざとらしく耳を伏せてしゅんとした。

本心なのか、ただの空気が読めない奴なのか。
判断できないぎりぎりのところをついた嫌味に、マダムたちは笑みを浮かべて口を閉じるしかなかった。
要するに僕は「恋愛結婚できなくてご愁傷様です」と言ったのだ。
政略結婚が当然の帝国内で、貴族の女性がどんな結婚生活を送るかだなんて考えずともわかる。
愛なんてそれこそ小説のなかだけ。おとぎ話でしかないのだ。
悔しそうに僕を見る相手に笑いかけると、皇太后が口を開いた。


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