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第7章:運命
お茶会01
しおりを挟む「す・う・ちゃ・ん、どうしてこっち見ないのかなっ?」
「……やめろ」
「ええっ、僕が可愛くスーちゃんって呼ぶの好きなんでしょ? これからも沢山呼ぶよ?」
ぶらぶらと迎賓宮の中庭を散歩しながら、さきほどのことをこれでもかとからかう。
ぷいっとそっぽを向く姿が可愛くて、僕は正面からノクティスの胸に飛び込んだ。
「へへ、今日もノクティスが可愛くて僕幸せ~」
すりすりと胸に顔をうずめる。
ノクティスはそんな僕の頭を撫でると、頭頂部にさりげなくキスをした。
その瞬間、全身に幸福が広がるかのようで……
おうっと危ない、にやけすぎてノクティスのシャツによだれをつけてしまうところだった。
「ノクティス今日はなにする?」
「ジョシュアは? 俺はジョシュアがしたいことがしたい」
「ん~とね」
このまま静かに二人で過ごすのはどうだろう。
そう提案しようとした時、背後からこちらに向かってくる足音がする。
同時にノクティスの体が強ばった。
「何の用でしょうか? ここはジョシュア王子が過ごす迎賓宮です。皇太后付きの侍女が来る場所ではないのでは?」
思わず後ろを振り返る。
皇太后付きの侍女…それがノクティスにとってどういう存在であるのかを考えれば、僕も警戒して侍女の挙動を確認した。
「突然のお伺い誠に申し訳ございません。皇太后陛下よりこちらをジョシュア王子殿下にお渡しするようにと、仰せつかりました」
「それは?」
ノクティスは柔和な笑みを浮かべていた。だが、侍女が差し出した手紙を見下ろす瞳はぞっとするほど冷たい。
「本日開催されるお茶会への招待状でございます」
「本来ならば事前に連絡するものであるにもかかわらず、突然の招待に答えろと? 皇太后殿下には次回は改めて招待するようにお伝えください」
ノクティスは上品に微笑んでいて物腰は柔らかいが、話を聞く気はないという圧があった。
尻尾をゆらゆらと揺らしながら考える。
これまでなんの接触もなかったのにいきなりお茶会ねぇ。急な呼び出しも自分の方が上であると知らしめるためなのだろう。
正直なところ、いったい僕の為にどんな余興を用意してくれたのだろうかと気になった。
ただ、ノクティスは皇太后と僕が顔を合わせることを望んでいないのだ。
だからこのままノクティスとこの場を離れようと、侍女の横を通りすぎようとした時、彼女は崩れ落ちるように膝を突き頭を下げた。
「どうかお願いいたします……! このまま帰ってしまえばどんな罰をうけるかわかりませんっ!」
侍女は頭を上げると目に涙を溜めて「どうかお助けくださいませ」と懇願した。
「だからなんだというんだ?」
「——ッ」
ゆらりとたちこめる霧のように、静かな殺意がノクティスから発される。
侍女は言葉を失い、視線を逸らすこともできずぼろぼろとなみだを零した。
「う~ん。……ねえねえノクティス」
ノクティスの耳に顔を寄せて、侍女には聞こえないよう考えを伝える。
「だめだ」
「まあまあ信じてよ。それに僕は強いよ? あ、もちろん口げんかもね」
ついでにパチンとウインクする。
ノクティスの形相が一段と恐ろしくなるが、怒りも頂点を突破してしまったのか、しばらくして長く息を吐いた。
「たしかにこの国人間でジョシュアより強い者はいないだろう。だが俺は反対だ。それでも変わらないのか?」
「うん」
だって、こうして接触をはかってきたからには、僕と会うまで皇太后は諦めないだろう。
今日はノクティスといる時だったからいいが、もし離れ離れの時にまた誘われたら?
どうせ一度は会わなきゃいけないのなら、さっさと片付けるべきだ。
「あ、でも1つだけ不安なことが……もし喧嘩をふっかけちゃったらごめんね?」
ぺたりと耳を伏せるほど心からの謝罪だったのに……
ノクティスは目を瞬くと、ぷっと吹き出した。
「はあ…そんなことを言うのはお前ぐらいだよ」
さらりと髪をなでた指先が、物足りなさそうに離れていく。
「30分だ。30分だけ待ったら迎えに行く」
「うん!」
さて皇太后はどんな人なのだろうか。
僕の大切な人を傷つけた女の顔を拝みに行こうじゃないか。
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