悪役王子に転生したので推しを幸せにします

あじ/Jio

文字の大きさ
上 下
69 / 76
第7章:運命

お茶会01

しおりを挟む




「す・う・ちゃ・ん、どうしてこっち見ないのかなっ?」
「……やめろ」
「ええっ、僕が可愛くスーちゃんって呼ぶの好きなんでしょ? これからも沢山呼ぶよ?」

ぶらぶらと迎賓宮の中庭を散歩しながら、さきほどのことをこれでもかとからかう。
ぷいっとそっぽを向く姿が可愛くて、僕は正面からノクティスの胸に飛び込んだ。

「へへ、今日もノクティスが可愛くて僕幸せ~」

すりすりと胸に顔をうずめる。
ノクティスはそんな僕の頭を撫でると、頭頂部にさりげなくキスをした。
その瞬間、全身に幸福が広がるかのようで……
おうっと危ない、にやけすぎてノクティスのシャツによだれをつけてしまうところだった。

「ノクティス今日はなにする?」
「ジョシュアは? 俺はジョシュアがしたいことがしたい」
「ん~とね」

このまま静かに二人で過ごすのはどうだろう。
そう提案しようとした時、背後からこちらに向かってくる足音がする。
同時にノクティスの体が強ばった。

「何の用でしょうか? ここはジョシュア王子が過ごす迎賓宮です。皇太后付きの侍女が来る場所ではないのでは?」

思わず後ろを振り返る。
皇太后付きの侍女…それがノクティスにとってどういう存在であるのかを考えれば、僕も警戒して侍女の挙動を確認した。

「突然のお伺い誠に申し訳ございません。皇太后陛下よりこちらをジョシュア王子殿下にお渡しするようにと、仰せつかりました」
「それは?」

ノクティスは柔和な笑みを浮かべていた。だが、侍女が差し出した手紙を見下ろす瞳はぞっとするほど冷たい。

「本日開催されるお茶会への招待状でございます」
「本来ならば事前に連絡するものであるにもかかわらず、突然の招待に答えろと? 皇太后殿下には次回は改めて招待するようにお伝えください」

ノクティスは上品に微笑んでいて物腰は柔らかいが、話を聞く気はないという圧があった。
尻尾をゆらゆらと揺らしながら考える。
これまでなんの接触もなかったのにいきなりお茶会ねぇ。急な呼び出しも自分の方が上であると知らしめるためなのだろう。

正直なところ、いったい僕の為にどんな余興を用意してくれたのだろうかと気になった。
ただ、ノクティスは皇太后と僕が顔を合わせることを望んでいないのだ。
だからこのままノクティスとこの場を離れようと、侍女の横を通りすぎようとした時、彼女は崩れ落ちるように膝を突き頭を下げた。

「どうかお願いいたします……! このまま帰ってしまえばどんな罰をうけるかわかりませんっ!」

侍女は頭を上げると目に涙を溜めて「どうかお助けくださいませ」と懇願した。

「だからなんだというんだ?」
「——ッ」

ゆらりとたちこめる霧のように、静かな殺意がノクティスから発される。
侍女は言葉を失い、視線を逸らすこともできずぼろぼろとなみだを零した。

「う~ん。……ねえねえノクティス」

ノクティスの耳に顔を寄せて、侍女には聞こえないよう考えを伝える。

「だめだ」
「まあまあ信じてよ。それに僕は強いよ? あ、もちろん口げんかもね」

ついでにパチンとウインクする。
ノクティスの形相が一段と恐ろしくなるが、怒りも頂点を突破してしまったのか、しばらくして長く息を吐いた。

「たしかにこの国人間でジョシュアより強い者はいないだろう。だが俺は反対だ。それでも変わらないのか?」
「うん」

だって、こうして接触をはかってきたからには、僕と会うまで皇太后は諦めないだろう。
今日はノクティスといる時だったからいいが、もし離れ離れの時にまた誘われたら?
どうせ一度は会わなきゃいけないのなら、さっさと片付けるべきだ。

「あ、でも1つだけ不安なことが……もし喧嘩をふっかけちゃったらごめんね?」

ぺたりと耳を伏せるほど心からの謝罪だったのに……
ノクティスは目を瞬くと、ぷっと吹き出した。

「はあ…そんなことを言うのはお前ぐらいだよ」

さらりと髪をなでた指先が、物足りなさそうに離れていく。

「30分だ。30分だけ待ったら迎えに行く」
「うん!」

さて皇太后はどんな人なのだろうか。
僕の大切な人を傷つけた女の顔を拝みに行こうじゃないか。
しおりを挟む
感想 198

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。