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第7章:運命
馬が合う?
しおりを挟む「それで? どうして喧嘩したわけ?」
問うなり2人が同時に口を開く。
被ってしまったことが不満なのか、ふてぶてしく口を閉じて互いを睨みつけた。
だがその数秒後。
またしても同じタイミングで二人は口を開いてしまい……
口喧嘩の始まりを知らせるゴングの鐘が聞こえた気がした。
「俺の言葉に被せるな。不愉快だ」
「それは我のせりふですぅ~。我はジョシュアと遊ぶのだ。お主は帰るがよい」
「帰るべきはお前だろう」
シェンの飄々とした態度に、真面目なノクティスから怒気がこみ上げている。
本人たちは相性が悪いのか、互いを嫌い合っているようだが、僕からしたらむしろここまでくると仲良しにみえた。
「はいはい分かったから。喧嘩はそこまでにしてね」
またあの洞窟の時みたいに、大喧嘩がおきたらたまったものではない。
二人をたしなめると、シェンの方を見た。
「シェン、ごめんだけど今日はノクティスと一緒に過ごす約束をしているからまた今度ね」
シェンはむぅと唇を尖らせてしょんぼりと肩を落とす。
だが、ここでいじけていても仕方ないと切り替えたのか、「わかった」と頷いた。
やけに素直だなとかえって困惑した時、シェンに想定外のことを聞かれる。
「それよりノクティスとは? なぜ前のようにスーちゃんとは呼ばないのだ?」
「え!? そ、それはさ……」
ノクティスがそう呼んでほしいと言ったから……と言いかけながら、頭の中でその日起きたことを思い返してしまう。
とたんに熱くなった顔に気づかれないようそっぽを向くと、シェンが弾んだ声をあげた。
「ならば今度は我をしーちゃんと呼んでくれ! そうしたら今日はおとなしく帰るとしよう!」
「え?」
「は?」
最後のどすの効いた「は?」はノクティスだ。
今にも噛み殺さんといわんばかりに、隣に座るシェンを睨みつけている。
「よいではないか~。我もあだ名で呼びあう関係に憧れていたのだ。だが、こいつと同じは嫌だから我慢していたところ、今はもう違うのだから呼んでくれもいいだろう
~?」
うるうる。きゅるきゅる。
息をのむほど美しい顔を最大限に使用してシェンがお願いしてくる。
美の暴力をもろに食らってしまった僕が頷いてしまいそうになった時、背筋が凍るような低い声が拒絶した。
「駄目だ」
「誰もお主には聞いておらぬ、我はジョシュアにしーちゃんと可愛く呼んで欲しいのだ」
シェンがブーブーと口を尖らせる。
一方ノクティスは、「ジョシュアがそうやって呼ぶのは俺だけだ」と言い、その勢いで僕をときめかせる言葉を放った。
「そもそもしーちゃん……だと? ジョシュアが可愛く俺を呼ぶときに似ているのに、俺が許すと思うのか?」
「……へ?」
思わず声を漏らすと、さきほどまでの勢いはどこへ行ったのか、ノクティスが停止する。
そして自分の発言を今になって理解したのか、みるみるうちに眦が赤くなっていった。
「へへっ。スーちゃんってこれからも呼ぼっか?」
「…結構だ」
うきうきしている僕を見て、ノクティスは墓穴を掘ったと悔し気に顔を手で覆ったのだった。
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