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第6章:触れたくて、すこし怖い

触れたい01

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 スーちゃんに送ってもらい部屋に帰ってきた僕は、ふらりと力が抜けて背中からベッドへと倒れこんだ。
 思い返すのはほんの数分前にした会話。
 耳にした色っぽい響きの声。唇に感じた甘く痺れるような熱。
 スーちゃんの軌跡を辿るように、自分の唇を指先でなぞった僕は声にならない悲鳴をあげた。

「~~~~っ! あれってなに! どういう意味!? そう意味だよね!?」

 世の中の大人になられた皆様に告げたい。
 僕、もしかしたら今夜大人の階段を上っちゃうかもしれない、と……

「今日が僕のめいにち……? いや、それよりも赤飯か……?」

 意味不明な言葉ばかり口から零れる。
 ついにはじっとしていられずに、ベッドの上で右に左に転がりながら、胸に抱くクッションへとこらえきれない興奮をぶつけた。

「ジョシュア様? お戻りになった——」

 その時、使用人が控える部屋と僕の寝室を繋げる扉から、モブ君がひょこっと顔を出した。
 今日は妹に会いに行くと休暇をとっていたので、昨日ぶりに顔を合わせるのだが……
 寝室の有様を見た彼の顔が途端に渋くなり、普段から小言を紡ぐ薄い唇はこれでもかとへの字に下がっていく。
 まさに「嫌なものをみてしまった」と言いたげに。

「……お帰りになったかと思えば一体何をなされているんです」
「ごめんなさい」
「ッ、ごめん、なさい!?」

 モブ君の顔が青ざめたかと思えば、今度は足早にこちらへやってくる。
 そして恐る恐る、「失礼します」と言いながら僕のおでこに触れた。

「ね、熱はないようですね……」
「はい」
「は、はい!?」
 
 ワナワナと震えると、恐ろしいものでも見るかのようにゴクリと生唾を飲み込んでいた。
 もう僕には「失礼だな」だとか「僕だって謝ることぐらいあるよ」なんて言う元気はない。
 
「い、一体なにがあったのですか……?」
 
 怯えているモブ君に手招きをすると、何があったのかを話して聞かせた。
 誰かに話したら、より照れくさい。
 加えて期待や興奮が入り混じり、再び体がうずうずする。
 ついには面はゆい気持ちを堪えきれずに、クッションへ拳を打ち付けた。
 背後から「ひっ」と小さな悲鳴が聞こえた気がしたが勘違いだろう。

「ジョシュア様落ち着いてください! その拳はもはや凶器です……というか、こうしている暇はありませんね」
 
 怯えたり正気に戻ったり、モブ君も忙しいな。
 ぼーっと見ているばかりの僕は、早々に使い物にならないと判断したのだろう。
 モブ君は「それでは今夜の支度をはじめます」と言い残して部屋を出て行った。
 それからの彼の働きは目覚ましいもので、僕は気づけばお風呂の中に放り込まれていた。
 楕円形の浴槽に揺らめく真っ赤なバラの花びらを眺めながら、3人の侍女に体を洗われる。
 体がほぐれてきた頃を見計らい湯から上がると、今度は隣室に用意された寝台の上へと横になるよう案内された。
 暖かみのあるオフホワイトのシーツの上へとうつ伏せに寝転がる。
 とろり、と果物のような甘い香りの香油が全身に塗られると、丁寧なマッサージが始まった。
 もはや僕にできることなど何もない……このまま抜け殻の如くジッとしていよう、と思った時。
 ひとりの侍女の手が緩やかに僕のお尻を揉みほぐし、その先にある極秘の穴へと指先が触れた瞬間——

「——ッ!!!!」

 声にならない叫びを上げた僕は全身の毛という毛を逆立てて飛び上がることになった。

 
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