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第6章:触れたくて、すこし怖い
変わる考え01
しおりを挟む「あ! そうだ、じゃあ、せめてこれぐらいはさせてよ」
僕はスーちゃんに手袋を外してもらうように頼む。言われたとおりにしてくれたスーちゃんは、少しぎこちない様子で手を差し出した。
「まだ魔力が落ち着かないと思うから、僕が鎮めるのを手伝うね」
これからすることを説明し、スーちゃんと手を重ね合わせて指を絡ませる。
いわゆる恋人繋ぎってやつだけど、けっしてこれがしたいが為に提案したわけじゃない。
……まあ、確かにちょっと役得だな、とかは思ってしまったけれども。
触れ合った肌から伝わるようにゆっくり、ゆっくりと僕の魔力を注いでいく。僕の体を覆うように現れた光の粒子が、流れ込む魔力に合わせて、スーちゃんの体を包み込んでいった。
「どう? 少しは楽になると思うんだけど」
「ああ。すごいな。さっきまでの怠さがかなり楽になった」
「へへ、よかった! 僕の祖国ではね、先祖返りの子が魔力の使い過ぎで苦しい時にはこうして癒す——」
言葉が途切れる。
急に押し黙った僕を、不思議そうに紫の瞳が見上げていた。
「あのね、僕の国にも獣人同士の夫婦から人間の姿で生まれてくる子供達がいる。そういう子達を僕らは先祖返りと呼んでいるんだ。それで、僕の国では……」
その子達は忌避などされず、差別など受けず。
むしろ珍しい人間の姿は特別でかっこいいだろうだなんて言い合えるぐらい、愛されて育つ。
そう説明をしたいのに、僕は声が震えそうになってしまった。
勝手に胸を痛めるのは違う。スーちゃんが抱える痛みに寄り添っていいのは、自らが傷ついた過去を見せてくれた時。
だから、今じゃない。
僕は心にひっかかる思いを飲み込んで、伝えるのを止めてしまった言葉を、普段よりも丁寧に慎重に音にする。
「——特別で、かっこいいだろうって人気なんだよ」
向かい合う瞳が揺れた。表情を隠すかのように、ゆっくりと視線が落ちていく。
「そうか……。お前たちの国では特別で、かっこいいのか」
「うん。特別で、かっこいいって──なんか僕にとってのスーちゃんみたいだよね」
刹那、弾かれたように愛おしい顔が僕を見上げる。
握りあったままの手を優しく解いて、今度は僕がスーちゃんの頬を包み込んだ。
「スーちゃんは僕にとっての宝物だから」
逞しい腕に腰を抱き寄せられる。
立ったままの僕のお腹に、スーちゃんは顔を埋めて「そうか」とだけ静かに呟いた。
僕の目には、溢れてしまいそうな何かを、堪えているように映った。
「……俺は、ジョシュアが居ればそれでいい。それ以上望むものはない」
誰に聞かせるでもない、独り言ちるように零れた言葉。空気に溶けてしまいそうなほど小さい声。
僕は指を絡めるように黒髪を梳きながら、僕を迎えに来た時に見せた不安定なスーちゃんの姿を思い返していた。
らしくなく、やけに感情的にシェンに突っかかっていたことは、変容していたせいで興奮していたからだと納得がいく。
だが、変容が起きる前であろうあの時。
『……お前がいない世界に未練などない』という台詞に、背筋が震えるような低くて冷たい声音と、迷いがない毅然とした瞳。
ちぐはぐな印象を受けたその時に、不安を感じたんだ。
本当にすべてを捨ててしまいそうな気がして。
「……ねえ、スーちゃん。僕を迎えに来てくれた時に言っていたあれは、本気?」
実はその時のノリでした、なんて言われたらそれはそれで泣いてしまうだろうが。
心の中で悔し泣きをしながらハンカチを噛む僕を思い浮かべていると、スーちゃんが顔をあげた。
「ああ、本気だ」
迷いなく断言する姿や、力強い双眸。
さすがに僕の妄想が見せているわけではないだろう。……いや、そうだよね?
なんてそんな馬鹿なことを考えながら、胸中はもどかしさでいっぱいだ。
そんなの望んではいないから。
確かに、少し前の僕はそれを求めていたのだろう。
自分を犠牲にしてでも何かを差し出すことを「愛」と呼ぶのだと勘違いしていたから。
——僕の為に死ねるほど愛してほしい。
そう、渇望して苦悩した時もあった。
だから、サナ皇后が羨ましくて、愛する女のために死を選んだ大公に焦がれたのだ。
けれどそれは、偶像に恋をして、ノクティス——スーちゃんに心底惚れる前の話しだ。
今は僕の為に、僕が愛する者が死ぬなど耐えられない。
それが例え、愛によるものだとしても。
だから未練がないだなんて言わないでほしい。多くの好きを見つけてほしい。
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