42 / 76
第6章:触れたくて、すこし怖い
秘密に触れるとき02
しおりを挟むだが、そんな気配は一向にない。
大人しく待機する騎士をその場に残して、レーヴ陛下はサナ皇后を連れてこちらへとやってくる。
そして僕達と向かい合い、頭一つ分背の高いシェンを見上げると、泰然とした様子で挨拶をした。
「私はこの国の皇帝レーヴ・ジェア・オートメルだ。龍人とは初めてお会いするゆえ、警戒せざるを得なかった。先ほどの無礼を許していただけないだろうか」
さすがレーヴ陛下だなぁ。
龍人を前にしてもご機嫌とりをしたり、取り入ろうとする様子がない姿には好感がもてる。
「かまわぬ。我も無礼を働いたからの。互いに今までのことは水に流すとしよう」
「感謝する」
無事に挨拶も済んだことだし、一応は和解したと判断していいだろうか?
それにしても、これで原作の小説「希望のフィオレ」に登場する主要人物がそろったわけだ。
僕は皆の顔を見遣る。そして最後に、ほがらかな雰囲気でシェンと挨拶を交わすサナ皇后を見つめた。
前世で好きだった小説。
その登場人物達が勢揃いしている様を見られるのは、ファンとしては興奮する状況だろう。
なのに、僕の心には明るい感情に交ざり、不安が去来していた。
僕は忘れていたのだ——シェンの名前を。あんなに前世で何度も読んで覚えていたはずなのに。
そして、小説の流れよりも早い展開で起きたイベントや、本来ならこうして集まることはなかった主要人物が、全員揃っている、今。
今後は、前世の記憶から得た知識を前提に、物事を考えるのは危険かもしれない。
似た名前、容姿を持つ者が生きる、まったく別の世界。
そうなると僕の知識なんて大して役に立たないだろうし、怖いのだ。
——スーちゃんを救えない状況に陥らないかと。
もしも、僕がスーちゃんの傍に居なかったら、原作通りの未来が待っていたのだろうか?
でしゃばらずに大人しく、スーちゃんが死ぬきっかけとなるイベントの時だけ手を出していたら、こんなふうに予想外の展開にはならなかったのかもしれない。
そんな考えが頭に過ぎった。
その時、ひときわ強い風が僕達の間を吹きあげる。
サナ皇后は靡いた柔らかな髪を耳にかけながら、穏やかな眼差しで、風に揺れる花草を見つめていた。
陽の光に照らされるなか微笑む彼女は本当に綺麗で……。
僕がここに居なければ、スーちゃんが愛していたかもしれないサナ皇后。
そっと視線を外す。
……今の僕にとって、彼女はあまりにも眩しすぎた。
107
お気に入りに追加
5,841
あなたにおすすめの小説
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。