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第6章:触れたくて、すこし怖い

秘密に触れるとき02

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 だが、そんな気配は一向にない。
 大人しく待機する騎士をその場に残して、レーヴ陛下はサナ皇后を連れてこちらへとやってくる。
 そして僕達と向かい合い、頭一つ分背の高いシェンを見上げると、泰然とした様子で挨拶をした。

「私はこの国の皇帝レーヴ・ジェア・オートメルだ。龍人とは初めてお会いするゆえ、警戒せざるを得なかった。先ほどの無礼を許していただけないだろうか」

 さすがレーヴ陛下だなぁ。
 龍人を前にしてもご機嫌とりをしたり、取り入ろうとする様子がない姿には好感がもてる。
 
「かまわぬ。我も無礼を働いたからの。互いに今までのことは水に流すとしよう」
「感謝する」

 無事に挨拶も済んだことだし、一応は和解したと判断していいだろうか?
 
 それにしても、これで原作の小説「希望のフィオレ」に登場する主要人物がそろったわけだ。
 僕は皆の顔を見遣る。そして最後に、ほがらかな雰囲気でシェンと挨拶を交わすサナ皇后を見つめた。
 前世で好きだった小説。
 その登場人物達が勢揃いしている様を見られるのは、ファンとしては興奮する状況だろう。

 なのに、僕の心には明るい感情に交ざり、不安が去来していた。
 
 僕は忘れていたのだ——シェンの名前を。あんなに前世で何度も読んで覚えていたはずなのに。
 そして、小説の流れよりも早い展開で起きたイベントや、本来ならこうして集まることはなかった主要人物が、全員揃っている、今。
 
 今後は、前世の記憶から得た知識を前提に、物事を考えるのは危険かもしれない。
 似た名前、容姿を持つ者が生きる、まったく別の世界。
 そうなると僕の知識なんて大して役に立たないだろうし、怖いのだ。

 ——スーちゃんを救えない状況に陥らないかと。

 もしも、僕がスーちゃんの傍に居なかったら、原作通りの未来が待っていたのだろうか?
 でしゃばらずに大人しく、スーちゃんが死ぬきっかけとなるイベントの時だけ手を出していたら、こんなふうに予想外の展開にはならなかったのかもしれない。
 そんな考えが頭に過ぎった。

 その時、ひときわ強い風が僕達の間を吹きあげる。

 サナ皇后は靡いた柔らかな髪を耳にかけながら、穏やかな眼差しで、風に揺れる花草を見つめていた。
 陽の光に照らされるなか微笑む彼女は本当に綺麗で……。
 僕がここに居なければ、スーちゃんが愛していたかもしれないサナ皇后主人公

 そっと視線を外す。
 ……今の僕にとって、彼女はあまりにも眩しすぎた。
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