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第6章:触れたくて、すこし怖い

秘密に触れるとき01

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 こうして、スーちゃん、シェン、僕の三人は少しの気まずさを引き連れて、皆の元へと帰還した。
 宙を切り裂くように生成された転移魔法の入口から地に降り立つと、ドンっとお腹に衝撃を受ける。視線をおろすと目に涙を溜めたセラジェルが、僕に抱きついていた。

「ジョ、ジョ、ジョシュアー! 無事でよかった……! 本当によかったっ」
「ごめんね、心配させちゃって」

 七色に輝く瞳から零れ落ちる涙を拭い、照れくさくなる。
 半日にも満たないたった1、2時間の出来事なのに、まるで何年も離れていたかのように反応されたら、嬉しくてこそばゆい。
 
「まったくだ! 君の場合、黙っておとなしくはしていないだろうからね。龍人が相手でも喧嘩を売るんじゃないかと、僕はひやひやしたぞ。何も騒動が起きなかったのは僥倖だな」
「ん?」

 一瞬、僕の身を心配したのではなく、問題を起こさないかということを気にかけていたように聞こえたが、気のせいだろう。
 僕という完璧な友達が攫われたのだ。きっと勘違いに違いない。
 それよりも、今は目前に広がる光景をなんとかしよう。

「あー、レ―ヴ陛下。いったん周囲に居る騎士達を下がらせてもらえませんか?」

 僕達の周囲を帝国の騎士団が囲んでいた。陽光に照らされた剣先が鋭い輝きを放つ。

「ジョシュア王子、無事で何よりだ。そして、そちらの御仁は龍人か?」

レ―ヴ陛下の固い声を聞いて、僕は斜め後ろに立っているシェンを仰ぎ見る。
眦が垂れた切れ長の瞳には敵意などなく穏やかなものだ。
 
「ご心配おかけしました。レ―ヴ陛下の言う通りこちらは龍人のシェンです。手違により、僕を連れて行ってしまったようでした。敵意があった訳ではありません」

 言いたいことわかるよね? と、真っすぐにレ―ヴ陛下とサナ皇后の瞳を見つめる。
 帝国内——それも城内での騒ぎとなれば「はい、そうですか」と簡単に警戒を解くなどできないだろう。しかしそれはあくまで相手の格が同等であるならばの話。
 仮にシェンに思惑や敵意があったとしても、人間が龍人に対抗することがどれほど危険な行いかは子供でも分かる。
 ていうか、死にたいの? って話だ。

「ここは僕に免じていったん引いていただけると嬉しいのです。お互いのためにも」

 僕に対して借りがあることは城勤めの者ならば知っていることだ。瘴気の根源の浄化もだが、舞踏会での事件も。
 なかでも近衛騎士は身をもって理解していると思う。少し前に「団長が責任を取り任を降りた」ようだしね。
 予想通りに今の言葉が効いたようで、肌がピリピリとするような警戒する空気が和らいだ。
 同じように周囲の機微に気づいたレ―ヴ陛下は、僕から右隣に立つスーちゃんを見遣る。

「大公はどうだ」
「ジョシュア王子の言葉通り、龍人——シェン殿に敵意はありません。なにより帝国の人間である私がこうして今ここに立っていることが、証拠になるのではないでしょうか」
「そうか。……お前達は剣を下ろしてさがれ」

 レ―ヴ陛下は一度頷くと、騎士に命を下した。
 僕達を囲んでいた騎士が剣を鞘に納めて、きびきびとした動きでレーヴ陛下の後ろへと戻る。その様子に内心では驚いていた。
 だって、あの「元近衛騎士団長」が上に立っていた団だよ?
 似たような思考を持つ貴族令息が多いのだから、噛みつく者が居てもおかしくないと思っていた。
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