40 / 76
第5章:龍の花嫁
うまがあう
しおりを挟む薄くぼやけた世界は、また今日も目まぐるしくまわる。疲れきった大衆、雨上がりの雑踏、誰も私の事を気にもとめない。来るはずのない貴方を待ち続ける。ひとりだけ、この世界から取り残されたようで、酷く虚しい。
「帰ろうかな。」
そう呟いた時、目の前を見知った車が通り過ぎる。明るい橙ランボルギーニ。思わず目で追っていた。10数メートル先で止まったそれからは、その人物が降りてくる。予想外の期待に胸が小さく弾んだ。思わず水溜まりを乱す。しかし彼が駆け寄ったのはその助手席。開かれたドアからはオシャレに着飾った小柄な子が降りてきた。
「それじゃあ、また明日!」
数メートルの距離にいるはずの恋人。こちらに気づく様子もなく、2人は抱擁し合う。呆然と立ち尽くす私には、それが醜く美しいものに見えた。駅の中へと入っていく人物と、それを見送る人物。そして、それを見つめる人物。同じ舞台の登場人物なのだろうか。それとも、私はただの見物客に過ぎないのか。
「あれ、やっぱりお前だったのか。もしかして、朝からずっと?」
主人公は、真っ直ぐにこちらへと歩み寄ってくる。口ぶりからして、今日の約束は覚えていたようだ。
「あ、うん、おつかれさま。」
いつものように笑顔を向ける。
「今から帰るところ?良かったら、今からどっか行く?」
殆どの人が帰路に着く頃、あのヒロインもその中の1人だったのだろう。彼の言葉に含まれているものは残酷なものなのだった。
「でも、疲れてるんじゃないの?」
「明日も休みだし、俺は全然構わないよ。お前が嫌なら無理にとは言わないけど。」
「んーん、私も大丈夫だよ。」
違う。明日は講義もバイトもある。
「じゃあ、乗りな。」
ドアを開けてくれる。さっきまで、別の人が座っていた席。微かに香水が漂う。彼好みの甘い匂い。今日の私と、同じ匂い。
「ありがとう。」
私の笑顔の奥には、一体何が孕まれているのだろうか。車に乗り込み、シートベルトを締める。
「どこいくの?」
「いつものところ。」
「そっか。」
もしかしたらという期待も、いとも簡単に打ち砕かれる。
車窓から見える舞台裏は、疲弊仕切っていた。各々が、今日の公演を終えたのだろう。
本来なら、私の舞台も華やかとは言わずとも充実したものなはずだった。10時間遅れの開始。淫猥なシナリオ。道化は笑顔を浮かべる。
妙に肌寒いここは、メインシーンへの馬車の中だろうか。
暫くすると、見慣れた通りが見えてくる。もうすぐお城に到着だ。
「あ、そういえばさ、今日新しい服来てみたんだ!似合うかな?」
「あー、そういやそれ見た事ないな、似合ってんじゃん。」
「ありがとう!」
本当は、よく見てない事も分かっている。惨めな道化は大袈裟に笑顔を作っていた。
「あー、やっぱちょっと疲れた。」
主人公はベットに倒れ込んだ。ぐるりと寝返りをうつ。
「ほら、来いよ。」
その言葉に、ゆっくりと跨り身体を倒す。トキメキも何も無い。冷めた熱が湧き上がった。
「お前上手いよな…。」
「ふふ。」
接吻の最中、そんな会話を交わす。熱は燃え上がると同時に温度を下げていく。
「ほら、して?」
彼がゆっくり擦り付ける。ここの所の流れだ。身体を起こし、ベルトを外す。少し大きくなったそれを口に含み、舌で撫でる。徐々に大きさが増していき、腰の動きも加わった。頭を押さえつけられ、息が苦しくなる。いやらしい音が響き渡り、速度をあげていく。
「ふっ…っあぁ…。」
微かな喘ぎと共に口内に液体が放たれた。嚥下するまでは放してもらえない。残りを吸い出し、吐き気を抑えながら無理やり押し込んだ。
「…口、洗っておいで。」
「うん…。」
その後、どうなるかは分かっている。口をゆすぐと、そっと部屋に戻った。顔を覗き込むと、案の定穏やかな寝息を立てていた。
「…おやすみ。」
高揚すら覚えないそれに自嘲を浮かべながら、隣りに横になる。視界が歪んだ。
「ふっ……ぅう…。」
主人公の演劇はもう終幕だ。起こさぬよう、息を殺しながら嗚咽をこぼす。
その感情の正体は分かっていた。
私とのデートの当日、彼は他の人とずっと一緒にいたのだ。約束の10時間後にその相手と赴いた。そして何食わぬ顔で欲を満たした。そこに愛などある筈がなかった。分かっていて、私はそれを拒むことは出来ない。嫌いになる事すら出来ない。
私には彼しかいない。そうでは無いと、周りに目を向ければ幾らでも他の人はいると、分かっている。しかし、私の事をしっかり見てくれる人は二度と現れない気がする。彼も、1度は私を愛してくれたのだ。体調を崩した日には、泊まり込んで世話を焼いてくれた。彼が困ってる時には相談もしてくれた。頼ってくれた。私には彼以外居ないのだ。私さえ我慢すれば、私はずっと彼の舞台にたっていられるのだ。間違っているとは分かっている。それでも、またいつかを思い出す。
「いっそ、私だけを見てくれればいいのに。」
ふらつきながら起き上がる。隣で眠る彼はそれに気付く素振りもない。ゆっくりとバッグを漁った。それを手に、再び彼に跨った。
「ん…なに…。」
不機嫌そうな声。
「大丈夫だよ。すぐに楽になるから。」
振り上げた腕を下げると同時に、ゆっくりと上体をおろす。
生暖かい液体が溢れ出る。
「………!!!」
彼の唇に自分のそれを合わせる。
みると、既に眼は虚ろだった。
刺した物を引き抜くと、血潮が舞った。
衝動に駆られ、傷口に顔を埋めた。何度も嚥下する。体内に彼が入ってくる。一つになれた。本当の意味で。
熱が増し、温度が上がる。
やっと、私たちは結ばれた。
「帰ろうかな。」
そう呟いた時、目の前を見知った車が通り過ぎる。明るい橙ランボルギーニ。思わず目で追っていた。10数メートル先で止まったそれからは、その人物が降りてくる。予想外の期待に胸が小さく弾んだ。思わず水溜まりを乱す。しかし彼が駆け寄ったのはその助手席。開かれたドアからはオシャレに着飾った小柄な子が降りてきた。
「それじゃあ、また明日!」
数メートルの距離にいるはずの恋人。こちらに気づく様子もなく、2人は抱擁し合う。呆然と立ち尽くす私には、それが醜く美しいものに見えた。駅の中へと入っていく人物と、それを見送る人物。そして、それを見つめる人物。同じ舞台の登場人物なのだろうか。それとも、私はただの見物客に過ぎないのか。
「あれ、やっぱりお前だったのか。もしかして、朝からずっと?」
主人公は、真っ直ぐにこちらへと歩み寄ってくる。口ぶりからして、今日の約束は覚えていたようだ。
「あ、うん、おつかれさま。」
いつものように笑顔を向ける。
「今から帰るところ?良かったら、今からどっか行く?」
殆どの人が帰路に着く頃、あのヒロインもその中の1人だったのだろう。彼の言葉に含まれているものは残酷なものなのだった。
「でも、疲れてるんじゃないの?」
「明日も休みだし、俺は全然構わないよ。お前が嫌なら無理にとは言わないけど。」
「んーん、私も大丈夫だよ。」
違う。明日は講義もバイトもある。
「じゃあ、乗りな。」
ドアを開けてくれる。さっきまで、別の人が座っていた席。微かに香水が漂う。彼好みの甘い匂い。今日の私と、同じ匂い。
「ありがとう。」
私の笑顔の奥には、一体何が孕まれているのだろうか。車に乗り込み、シートベルトを締める。
「どこいくの?」
「いつものところ。」
「そっか。」
もしかしたらという期待も、いとも簡単に打ち砕かれる。
車窓から見える舞台裏は、疲弊仕切っていた。各々が、今日の公演を終えたのだろう。
本来なら、私の舞台も華やかとは言わずとも充実したものなはずだった。10時間遅れの開始。淫猥なシナリオ。道化は笑顔を浮かべる。
妙に肌寒いここは、メインシーンへの馬車の中だろうか。
暫くすると、見慣れた通りが見えてくる。もうすぐお城に到着だ。
「あ、そういえばさ、今日新しい服来てみたんだ!似合うかな?」
「あー、そういやそれ見た事ないな、似合ってんじゃん。」
「ありがとう!」
本当は、よく見てない事も分かっている。惨めな道化は大袈裟に笑顔を作っていた。
「あー、やっぱちょっと疲れた。」
主人公はベットに倒れ込んだ。ぐるりと寝返りをうつ。
「ほら、来いよ。」
その言葉に、ゆっくりと跨り身体を倒す。トキメキも何も無い。冷めた熱が湧き上がった。
「お前上手いよな…。」
「ふふ。」
接吻の最中、そんな会話を交わす。熱は燃え上がると同時に温度を下げていく。
「ほら、して?」
彼がゆっくり擦り付ける。ここの所の流れだ。身体を起こし、ベルトを外す。少し大きくなったそれを口に含み、舌で撫でる。徐々に大きさが増していき、腰の動きも加わった。頭を押さえつけられ、息が苦しくなる。いやらしい音が響き渡り、速度をあげていく。
「ふっ…っあぁ…。」
微かな喘ぎと共に口内に液体が放たれた。嚥下するまでは放してもらえない。残りを吸い出し、吐き気を抑えながら無理やり押し込んだ。
「…口、洗っておいで。」
「うん…。」
その後、どうなるかは分かっている。口をゆすぐと、そっと部屋に戻った。顔を覗き込むと、案の定穏やかな寝息を立てていた。
「…おやすみ。」
高揚すら覚えないそれに自嘲を浮かべながら、隣りに横になる。視界が歪んだ。
「ふっ……ぅう…。」
主人公の演劇はもう終幕だ。起こさぬよう、息を殺しながら嗚咽をこぼす。
その感情の正体は分かっていた。
私とのデートの当日、彼は他の人とずっと一緒にいたのだ。約束の10時間後にその相手と赴いた。そして何食わぬ顔で欲を満たした。そこに愛などある筈がなかった。分かっていて、私はそれを拒むことは出来ない。嫌いになる事すら出来ない。
私には彼しかいない。そうでは無いと、周りに目を向ければ幾らでも他の人はいると、分かっている。しかし、私の事をしっかり見てくれる人は二度と現れない気がする。彼も、1度は私を愛してくれたのだ。体調を崩した日には、泊まり込んで世話を焼いてくれた。彼が困ってる時には相談もしてくれた。頼ってくれた。私には彼以外居ないのだ。私さえ我慢すれば、私はずっと彼の舞台にたっていられるのだ。間違っているとは分かっている。それでも、またいつかを思い出す。
「いっそ、私だけを見てくれればいいのに。」
ふらつきながら起き上がる。隣で眠る彼はそれに気付く素振りもない。ゆっくりとバッグを漁った。それを手に、再び彼に跨った。
「ん…なに…。」
不機嫌そうな声。
「大丈夫だよ。すぐに楽になるから。」
振り上げた腕を下げると同時に、ゆっくりと上体をおろす。
生暖かい液体が溢れ出る。
「………!!!」
彼の唇に自分のそれを合わせる。
みると、既に眼は虚ろだった。
刺した物を引き抜くと、血潮が舞った。
衝動に駆られ、傷口に顔を埋めた。何度も嚥下する。体内に彼が入ってくる。一つになれた。本当の意味で。
熱が増し、温度が上がる。
やっと、私たちは結ばれた。
117
お気に入りに追加
5,835
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。