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第5章:龍の花嫁
別々の道
しおりを挟む二人はピタリと動きを止める。
僕は彼らをねめつけた。
「なあ、僕は何度もやめろと言った。それなのにお前たちはなんだ? いったいなぜ争っているんだ? 僕は、やめて欲しいと伝えているのに」
ちょっと、いや、めちゃくちゃ怒っていた。
だってそうだろう。
二人が争う理由は僕なんだろう?
なのに、その理由が止めようとしても、聞きやしないのだ。
そんなのは僕を理由にした、ただの鬱憤晴らしではないか。
なにより、僕だけ蚊帳の外って、おかしいだろう!
「……シェン。相手が僕の恋人だって知っていながら、闘いにのったんだ。僕に嫌われてもいいんだよな?」
「──っ! そ、それは、わ、我はちょっとばかし」
「言い訳するな」
ピシャリと言葉を遮る。
途端にシェンはしおしおと落ち込み、臨戦態勢をほどいた。腕は滑らかな皮膚へと戻り、気圧されるほどの魔力が霧散していく。
そうして次に、僕はスーちゃんへとにっこりと笑いかけた。
「スーちゃんも。どうやら怪我をしないかと、心配をしていたのは僕だけみたいだね? 夢中になるほど戦うのは楽しかったかな?」
「わ、悪かった……」
「へえ、謝れるんだねぇ。偉いねぇー」
「~っジョシュア、怒っているか……?」
怒っているかもなにも当然──
「君たち、そこに座ろうか」
めちゃくちゃに怒っていた僕は、剣を下ろすと不遜に顎で地面に座れと命令をした。
*
くどくどと長い説教が終わる頃、二人は顔を白くして震えながら立ち上がった。
「もう二度と僕を理由にして戦わないでね。ほんと、次に同じことがあったら問答無用で嫌いになるから」
「「ごめんなさい」」
声が重なったことがそんなにも嫌なのか、威嚇する猫のように、二人が睨み合う。
「……はあ、もういいよ。とりあえず僕たちは帰るから」
これ以上は止める気力もない。
色々なことがあってこちらも疲れていた。
僕はシェンに声をかけると、スーちゃんを連れて洞窟の入口へと歩き出す。
「洞窟の入口を抜けて、そのまま真っ直ぐと道を歩いていけば、この空間から元の場所へとたどり着くぞ。……ジョシュアよ、すまなかったな。しかし──楽しいひと時であった。感謝する」
「……」
背後からかけられた声に歩みが止まる。
大人しくついてきていたスーちゃんは、僕を伺うようにして同じく立ち止まった。
「シェンはそれでいいのか」
「なにがだ?」
長寿だから故に、外との関係を断つ。
好んだ者たちを幾度となく見送るのは、強さなど関係なく切ないものだ。
「シェンは、ずっとここにいるのか? それとも、変わりだした世界を見てみる?」
振り返り、問いかければ、シェンは凪いだ水面のように、穏やかな表情を浮かべていた。
龍人がこぞって異空間に籠る本当の理由など、他人である僕には分からない。
けれども、シェンはきっかけが欲しかったのではないか。
ここから出ることのできる、自分の考えを動かしてくれる、特別ななにかが。
「そうさな……」
けれど、シェンはゆるりと首を振った。
「我はここに住まう。ジョシュアとはこれにてお別れだ」
「……そっか。元気でね、シェン」
「ああ。ジョシュアも。必ず長生きするのだぞ」
シェンの気持ちは揺るがない。彼が選んだのはここに残ることだ。
僕は最後に心から笑うと、再び歩き出す。
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