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第5章:龍の花嫁

救出01

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「それにしても我は悪いことをしてしまったな。ジョシュアに愛する男がおるとは知らなかったとはいえ、連れ去って悪かったのう」

謝罪の言葉にはっと目が覚めるように意識が戻る。
僕は頭を切り替えるように、慌てて首を横に振った。

「いや、僕もお前と会えてよかったよ。こんなふうに話をできる相手はなかなか居ないからさ。……それから、鱗もありがとう。二年ものあいだ大変だったろ」
「なにをいうか。好いた者への求愛行動だ。楽しくはあれど苦など感じなかったぞ。……だが、戻らねばな! ジョシュアの帰りを待つ皆の元へと送ろう」
「ありがとう」

そう言って僕たちは手を取り合い立ち上がった。
だが、

「じょ、じょ、ジョシュアよ……! 我はいま足が異様に痛いぞ! これはなんなのだ病なのか!?」
「は?」

立ち上がった刹那にシェンが情けない声を上げたのだ。へっぴり腰になって立ち尽くしている。

そういえばシェンはずっと僕と目線を合わせるために正座をしていたな……?

涙目になりぷるぷると震えながら足の痺れに耐えているシェンを見て、思わず口角がつり上がった。
そして僕の指先は痺れているであろう太ももをつんと触れてしまう。

「ひいい……!」
「へへっ、痛いだろ? これは足が痺れているんだよ。長いあいだ正座をしていたからだな」
「や、や、やめるのだ! つんつんするでない!」
「でも、シェンは痛いの好きなんだろ?」

それとこれとは話が別なのだと、シェンは叫んだ。

「まあ落ち着けって。しばらくすると治るから。最初は痛いけどさ、むりやりに足を動かしたり揉んだりする方が早く慣れるよ」
「そうなのか?」

経験談としての助言だ。
正しい方法かは分からないが、痺れているあいだにじっとして耐えるほうが、僕はしんどかったりするからな。

話を聞いたシェンはよたよたと歩き出す。
はたから見たら面白い動きをしていた。同時にその痛みがどんなものであるかよく知っているだけに、思わず手を差し伸べてしまう。

「ほら手を貸すから掴みなよ」
「恩に着る……!」

世界最強と言われる龍人も足の痺れには弱いのか。
ぷぷっと吹き出しながら、シェンの一歩前に立ちゆっくりと歩幅をあわせて歩いていた時だった。

「うあっ」

足が痺れて感覚がなかったのだろう。
シェンが身に纏う服の裾を踏みつけて、こちらへと倒れ込んできたのだ。
一拍ほど動きが遅れた僕は、慌ててシェンを抱きしめる。が、耐えれすぎに後ろへと倒れてしまった。

「うう、いってぇ~~!」
「すすすすまない!」
「っいや、お前も手を打ち付けただろ? 大丈夫?」

思いっきりおしりと背中を打ち付けた。じんじんと熱が集まってくるのが分かる。
ただ、わずかな瞬間にシェンが僕の後頭部を庇ってくれたおかげで、頭だけは無事だったのだ。

「うむ。足の痺れよりは痛くないぞ」
「どんだけ痺れに弱いんだ? それよりも裾が長い服なんだから気をつけなよ」

シェンの服は前世でいところの漢服に似ていて、裾がゆったりと地面に流れているのだ。
優雅で美しいのだけれど、こういう時には少し不便な長さをしている。

「うむ。きをつける」

頷くシェンをみとめてから、僕は退いてくれと頼んだ。
傍から見たら、僕はいまシェンに押し倒されたような状態だ。
足に力が入らないせいか、物理的にシェンの大きな体に押しつぶされそうで、目の前の胸板を両手で必死に支えている。

「お、重いんだけど……!」
「すまぬ、いま起き上がるぞ!」
「わかったから早くして!」

シェンは足が痛いし、僕は押しつぶされているし。
あわあわと二人でもがいていた時だった。

遠くの方──僕たちが向かおうとしていた方向から、けたたましい爆発音がしたのは。

そして、打ち付けるような爆風とともに流れ込んできた魔力は、間違いようもなくあの人のもので。
暗くて影になっている奥から駆けるようにこちらへとやってきたスーちゃんは、僕を見つけて足を止めた。

青紫色に照らされる表情が、驚愕から殺意へと塗り変わるのはあっという間のできことだった。
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