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第5章:龍の花嫁

龍人シェン04

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な、な、なんていうことだ……!
僕より遥かに立派なストーカーが目の前にいた!

存在を認知していなかった相手に、一方的に知られているというのは、これほどまでに恐ろしいものなのか。

僕がいままでスーちゃんにしてきたあれやこれを思い返して身もだえた。
いうなれば、眠る前に消えない黒歴史や恥ずかしい過去を思い返して、叫び出したくなる衝動に似ている。


「~っく……! ぼ、僕もお前と同じことをしていたから責めることができない……!」
「同じこと?」
「い、いいや。なんでもない。それよりどうしてそんな昔から? それこそ何をきっかけで僕を──」

湧き上がる疑問に押されて、気になることが口をついでこぼれ落ちる。
思案するあまり己にのみ向いていた意識を、シェンへと投げかけていきを飲んだ。

シェンの青紫の瞳が魔力を内包し淡く揺れている。
縦長の瞳孔はさきほどよりも鋭く、刃のような輝きを放った。

「ジョシュアの魂が──この世のものではないからだ」
「──ッ!」

浮世離れした美貌からいつの間にか笑みは消えていた。
刺すような強い視線が真っ直ぐに僕の心臓……いや、紋章が刻まれている場所を注視する。

「なに、そう案ずるでない。ジョシュアのように違う世界の魂が、この世界の肉体と結びつき誕生することは稀にあることだ」
「……お前には全部見えるのか? 僕に違う世界の、前世の記憶があることも」
「ああ。見ようと思えば記憶とて見えるぞ? 聞きたくもないというのに、言葉にしなかった感情までもが流れ込んでくるからの。……しかし、他人の思いを知ったとてなにひとついいことはないのでな。聞こえぬように魔法で遮断しているのだ」


つまりシェンやひいては龍人の前では、嘘なんて通用しないということか。
神の御使いと謳われていることから、規格外であることは理解していたつもりだったけれど……。

「……ならシェンが僕を好きになったのは違う世界の魂を持っているからか」

ぽつりと、こぼれ落ちた言葉に納得がいく。
過去にも同じような人が居たそうだが、それでも希少であることに変わりはないようだ。

しかし、シェンのそれは恋ではなくあくまでも興味の域をでないのではないか?
そう思った時、小さな子供がいやいやと抗議をするような口調でシェンが言った。

「何を言うか! 我は珍妙な魂ごときでころりと恋に落ちるほど、あんぽんたんではないのだぞっ! 我は、われは……」


そして、なにか心に燻る激情をこらえるように胸元を押さえつけて、高らかに叫ぶ。


「ジョシュアが泣いている姿に心を奪われたのだ!」
「……」
「泣いている姿があまりにも可愛かったのだ!」
「……あ、はい」


え、なに?
ころりと落ちてるじゃん。
たやすくころりと恋に落ちちゃってるよね……?

なのにシェンはまるで「一生に一度の出会い、神のお導きだ」とでも言い出しそうな雰囲気だ。

僕は冷めた瞳でため息をつくと、痙攣する唇を動かして言った。


「とりあえずむり。僕、今恋人いるから」
「あの男は、」
「いや違うよ。きっと、シェンが知らない相手だ」
「──な!? ななななんて!?」





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