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第5章:龍の花嫁

龍人シェン01

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空に現れた異空間に体が吸い込まれ、視界が真っ暗闇に染まったと思った刹那。
僕の体は柔らかな草花でできたベッドらしきものの上に座り込んでいた。

夜のように暗いなか、ゴツゴツとした岩肌を見て、ここが洞窟であることを知る。
しかし、辺り一面を染める深い青紫色の光や、ところどころに群生している見たことのない銀色の花の姿は、まるで夜空のなかにいるかのようだった。
ここにあるもの全てが魔力を帯びて淡く発光している。

その情景は静謐で美しい。けれども、どこか寂しさが胸に去来する。
そんな場所で……──。

「待っておったぞ、ジョシュア」

この世の者とは思えない。神々しいほど美しい男が、ほんのりと目尻を朱色に染めて言った。
あまりの美しさに言葉が詰まる。
絶世の美男……そんな言葉ではおさまらない。
きっと、どんな言葉を用いても、目前の男を表現することなどできないのだろう。

早く元に居た場所へと帰してくれ。
そう伝えたいのに、この場所や男の美しさに惚けたまま、意味もなく口を開閉した。

そんな僕と視線を合わせるために座り込んだ男は、面映ゆそうに笑った。
そして、

「そんなに見つめるでない。照れてしまうだろう? そう急かさずとも、伽は月が天上に姿を現したら行うものだと聞いたからな! それまではお喋り、とやらをしようでないか我が花嫁」
「──!?」

我が花嫁? いやそれよりも、

「伽!?」

僕は耳を疑い叫んだ。
嘘であれと、聞き間違いだと確認したくて。
けれど、男は青紫の瞳を見開くと、三つ編みにされている紫がかった白髪を指でいじいじとしだした。

まるで年頃の少女のように恥じらう姿を見て、イラッとした感情が芽生える。

「じょ、ジョシュアよ、あまり大きな声で言うものではないのだぞ? しかし、好いたものに口にされるとそれはそれでよいものであるな……」

男はそこまで言うと、チラリと伺うように僕を見た。

「少々、破廉恥ではあるがジョシュアが望むのであれば今すぐ"合体"するのも──」
「ねえ、それ以上に顔を近づけたら殺すよ?」

唇をむちゅーっと尖らせて距離をつめられた僕は、咄嗟にその美麗な顔を鷲掴みにして止めていた。

「──っ! わ、我を殺すと!?」

僕の手のひらで顔を潰されたまま、くぐもった声でそう言う。
逆鱗に触れたかと、身構えた時だった。

「ハァハァ、よ、よいな……! 可愛いジョシュアに痛めつけられるのもよい……!」
「え、なに、きっしょ」

男は胸元を抑えて見悶える。
はぁはぁと息を荒くさせて、ぶるりと身を震わせている様子に、僕はどん引きしていた。
それを眺めながら、前世で見た光景が脳裏に蘇る。
そうだアレはSM倶楽部、というやつだ。
嬢王様に鞭でおしりを叩かれ、蝋燭を乳首に垂らされ、かかとの尖った狂気のようなヒールで股間を踏まれて……。

そういった男たちは、「醜いブタ野郎」と呼ばれて喜んでいたことまで思い出す。

「さてはお前、もしやブタ野郎というものなのか!?」
「ブタヤロー!? それはいったいなんなのだ!?」

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