悪役王子に転生したので推しを幸せにします

あじ/Jio

文字の大きさ
上 下
23 / 76
第5章:龍の花嫁

ピクニック02

しおりを挟む
皇家が手配した馬車に乗り、目的の森林まで辿りつく。
スーちゃんの手を借りて馬車から降りると、サナ皇后とレーヴ皇帝が僕たちを出迎えてくれた。

「ごきげんよう、ジョシュア王子。今日は空も晴れて、いい日になりそうですね」
「そ、そうだといいんだけどね」
「あら、なにかありましたか?」

ひきつり笑いの僕に、サナ皇后が首を傾げる。
僕は「少し二人きりで話そう?」と彼女を誘った。
頭に浮かぶ情報をまとめながら、とくに目的もなく歩いていく。
しばらくして、隣から弾けるような明るい声が聞こえてきた。

「ジョシュア王子! 見てください、綺麗な野花ですよ」
「あ、本当だ……」

小さな丘の上には、黄色の小花が群生していた。
少し前を見れば、さきほどまで僕たちが居た場所が見える。
眼前に広がる、鮮やかな緑の瑞々しさと、黄色の可愛らしい花びらが、ふと僕の心を軽くしてくれた。

「あのさ。今から僕が話すことなんだけどね。どんなに信じられないと思うことでも、もしかしたら起きてもおかしくないと思って覚えていてほしいんだ」
「わ、分かりました」

ぱちぱちと瞬きをして頷く彼女を見て、僕は気にかかっていたことを告げた。

実は原作の小説である「希望のフィオレ」では、物語の龍人編にて、サナ皇后が龍人に攫われるシーンがある。
悪役王子のジョシュアがやってくる前の話だ。
原作の僕は秋の始まりに、帝国にやってきたと小説内では書かれていた。
ちょうど、星夏祭が終わった直後──スーちゃんが死んでしまうイベントだ。
そのため何よりも最重要事件として阻止するために、行動は既に起こしている。
スーちゃんを守るためなのだから、その件に抜かりはない。

ただ、おかげですっかりと忘れていたのだ。
サナ皇后に襲いかかる試練については、ノーマークだった。
なによりサナ皇后が攫われるのは星夏祭が終わってから。
今は夏で星夏祭が始まるまでに、半月もの時間があるため杞憂ではないかと思ったが……。

今日のセラジェルの発言を聞いてしまうと、不安が過ぎる。
精霊が騒がしいとろくな思いをしなかったと、話してくれた出来事が引っかかったのだ。

──龍がやってきたこともあったね。

それを聞いてから、ずっともやもやしていた僕は、馬車で移動している間に、流れを思い出していた。

原作では、サナ皇后とレーヴ皇帝が二人乗りで遠駆けに行く、初めてのデート日に龍人が花嫁としてサナ皇后を攫ってしまうのだ。

救出のため、真っ先に彼女の元へ駆けつけたのは、スーちゃんだった。
そして、その後を追いかけるように、レーヴ皇帝がやってきて、二人で龍を退けるという展開になる。

けれど、現実はどうしたってその流れ通りには行かないだろうし、そうなるとレーヴ皇帝がどうやって救出することになるのかも、予想ができない。

なんせ、レーヴ皇帝が追いかけてくるきっかけには、スーちゃんの言葉が必要なのだ。

『貴方はそうしてずっと独りで生きて行くのだろう。失う痛みを知ってからでは遅いというのに、救いのない悔恨に咽び泣きながら』

サナ皇后を好きになりかけているのに、けれど「皇帝らしさ」という呪いのような在り方に縛られて動けない弟に、兄が告げるのだ。

そして、『その手を自ら離すのであれば、私の剣で彼女を守ることを許していただきたい』と、宣言もする胸熱なシーンだった。

前世の僕は興奮してその話を読んでいた。
なんせ、レーヴ皇帝に自我が芽生える大切な場面だし、感情を抑えてきたスーちゃんが凛善と決意する場面だから。

今の僕は想像するだけで胃がキリキリするけれど。
……まあ? 僕のスーちゃんは、サナ皇后に剣は捧げていないし、ていうか捧げさせないし、僕が絶対阻止するし!
当然そんなことは起きない。

となると、もし龍人がサナ皇后を攫った時にどうするのかと、疑問が残るのだ。
同時に知っていて何もしないでいられるほど、サナ皇后は僕にとってどうでもいい存在ではない。

結局、僕らが阻止すればいいのだろうと、考えついたわけである。

しおりを挟む
感想 198

あなたにおすすめの小説

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。