悪役王子に転生したので推しを幸せにします

あじ/Jio

文字の大きさ
上 下
21 / 76
第5章:龍の花嫁

やきもち

しおりを挟む


話し合いが終わり、迎賓宮へと帰るために僕たちは馬車へと乗り込んだ。
しばらくして馬車が動き出すと、スーちゃんがこの後の予定を聞いてくる。

「セラジェルに一週間後にあるピクニックのことを伝えに行くつもりだよ」
「そうか」

こくりと頷くスーちゃんを見て、僕はちょっぴり心配になった。

実は帰る間際にサナ皇后が個人的に僕に謝ってきた。
僕としては話し合いもしたし、それで区切りをつけたつもりである。
しかし、どうやらあちら側はそう簡単に心を切り替えることもできないようだった。
このままでは変に遠慮をされて、気まずいまま距離を置かれそうだ。
だから、僕から一緒に出かけようとサナ皇后を誘ったのである。

頭の中でお茶会メンバーである三人での予定を立てていた僕は、隣から「一緒に行く」と言ったスーちゃんに驚いた。
けれどスーちゃんが来てくれることは素直に嬉しい。げんきんな話だが、今は二人が話しているのを見ても、心配したり苦しくなることはない。

喜んでスーちゃんを招待しようとした僕は、笑顔を浮かべて固まった。

僕とスーちゃんとサナ皇后が固まって話しているのを、ほんの少し離れた距離からレーヴ皇帝がじぃーっと見つめてくるのだ。

あの感情を全く映さない、死んだ魚のような目で。

僕が助けを求めてサナ皇后を見遣ると、彼女はなぜか頬をぽっと赤く染めた。
そして、僕に照れながら言ったのだ。

──陛下もお誘いしてよろしいでしょうか、と。

そういうわけで、来週に予定されるピクニックのメンバーは、僕、スーちゃん、セラジェル、サナ皇后、レーヴ皇帝の五人となってしまった。

だから心配なのである。
スーちゃんにとってレーヴ皇帝は快い相手ではない。そんな相手と一緒に居ないとならないけれど、大丈夫なのだろうかと。

「なんだ?」
「う、うーん……」
「言いたいことがあるなら我慢するな」
「……じゃあ聞くね。遠出の件だけど、嫌だったら来なくていいんだよ?」
「なぜだ?」

スーちゃんはきょとりと目を瞬いた。
もごもごと口にしていいのか悩んだ結果、率直に聞くことにする。

「レーヴ皇帝も来るのはちょっと予想外だったし……。気まずくないかなあとか」
「気まずい?」
「う、うん。だって、ね?」

実の兄弟であることを知っている、だなんてことは言えない。
困ってしまい誤魔化すように笑った刹那、スーちゃんの瞳に剣呑な光が宿った。

「まさか──俺に来て欲しくないのか?」
「はっ!?」

なんでその答えに辿り着いたのか。
今度は僕が目をぱちくりと瞬く。
そうしている間にも、スーちゃんはそっぽを向くと、ボソッと拗ねるような口調で言った。

「……顔が好きだと言っていただろ」
「顔?」
「そうだ。俺の顔が好きだと言っていた」

スーちゃんはそこで一度口を閉ざすと、再び僕へと視線を戻した。

「陛下と俺はよく似ていると言われる」
「──ッ!」
「陛下の顔も好きということになるのではないか? だから俺に来て欲しくないのか」
「っ、な、あ!」

そんな馬鹿なことあるわけが無い!
心ではスルスルと言葉が出てくるのに、現実では上手く動いてはくれず、意味をなさない音ばかりをうみだす。
確かに過去の僕はスーちゃんに言っていた。言い訳もできないくらいに、すっぱりと顔が好きだと宣言しましたよ。

でも、僕は例え同じ顔をした人があと100人居ても、スーちゃんだけを見つけるし、スーちゃんだけを好きになる。
停止しかけた頭を強制的にたたき起こし、その思いを伝えようとした時。
スーちゃんの両手がまっすぐに伸びてきて、僕の頬を包み込んだ。
そして、切なげな表情を浮かべて、僕の瞳を見つめる。

「だめだ。俺以外を見るな」
「──ッ!」
「よそ見なんてするな」

心臓の音が跳ね上がった。
もう少しでキスができてしまいそうな距離で。
希うように、嫉妬心をあらわにするスーちゃんの姿に、呼気が熱くなる。

こくこくと頷くだけで精一杯の僕に、スーちゃんはおでこを合わせたあと、離さないとでも言うかのように僕を抱きしめた。
力強い抱擁のなか、抱きしめられているのは僕なのに、まるで縋っているのは彼のように思えて、切なさに心が震える。

「スーちゃんしか見てないよ」
「……可愛いと言われてもホイホイとついて行くなよ。危ないヤツばかりなのだから」
「僕のことなんだと思ってるの?」

ちょっと、スーちゃんから見る僕の存在が不安になってくるのだが。
極度のナルシストとでも思われているのだろうか?

「……だったらスーちゃんが僕にたくさん可愛いって言ってくれればいいんだよ。そうしたら考えてあげる」
「調子に乗るな」
「いひゃいっ!」

ぎゅーっと頬を抓られて、冷めた目で見下ろされる。
負けじとへへへっと笑い返すと、ため息とともに再び抱きしめられた。

「はあ……。心配だ」

頭上から降り注ぐ困った声音を聞きながら、僕の尻尾はご機嫌に揺れていた。
しおりを挟む
感想 198

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。