悪役王子に転生したので推しを幸せにします

あじ/Jio

文字の大きさ
上 下
18 / 76
第5章:龍の花嫁

近衛騎士団の膿02

しおりを挟む


話し合いの部屋に辿り着く。
両扉の前には重々しく、護衛騎士が立っており、目礼をして扉を開けてくれた。

部屋の中には既に役者が揃っていた。
両陛下と宰相。そして、今回の主役でもある近衛団長が居り、その隣には、僕の護衛をずっと担ってくれている、黒曜騎士団の隊長が居た。

隊長の前を横切る際に、目を合わせて微笑めば、安心させるような温かな眼差しが返ってくる。

うん、僕の護衛騎士は相も変わらず頼もしくていい奴らだ。

僕は胸中でひとりごちながら、侍従に案内された席へと腰を下ろした。
部屋の中は机や椅子などの必要最低限の設備のみで、深いグリーンを基調とした落ち着いた部屋だ。

「到着が遅くなり申し訳ございません」

スーちゃんが上辺だけの謝罪をすると、皇帝陛下は小さく頷いた。

「構わない。それよりジョシュア王子。こたびは我々の不手際により、危険な目に合わせてしまいましたことをお詫びいたします」
「──ッ!」

おや? レーヴ皇帝自らが謝罪したな。
おかげで帝国サイド──近衛団長が驚愕しているが、他の者たちはあまり動揺していない様子だ。

これならばトントン拍子で話が進むだろうか?

だが、そうはいかないようで、正気を取り戻したのか、近衛団長が発言を求めた。

「手短に」
「ハッ」

レーヴ皇帝が許可を出すと、近衛団長が騎士の礼をとる。
だが、その表情や瞳には、ありありとした嫌悪感や反骨心が宿っていた。どうやら、近衛団長は両陛下側の人間ではないようだ。
太后ひいては三人目の悪役である、ズロー侯爵などを主とした反対派か。

ということはだ。
レーヴ皇帝陛下もサナ皇后も、ましてや初めて顔を合わせる宰相も、もちろん近衛団長の内心はお見通しであろう。
宰相に関しては不安は残るが、原作の小説では、この国に身を捧げた男であると記憶している。それが正しいかは分からないが、今はひとまず仮に敵対関係ではないとすれば……。

レーヴ皇帝が僕に謝ったことを考えても、こちらの好きなように調理をしてかまわないと、そう言っているのだろうな。

「発言の許可をいただき感謝いたします。ですが、恐れながら陛下、公の場ではないにせよ、陛下自らが謝罪をするなどあってはならないことです」

まずは近衛団長の話を聞こうと思ったが、真っ先にそちらを指摘するか。

よほど面の皮が厚いタイプなのだろうな。
この場を設けられた理由を考えれば、人様にましてや直属の上司ともいえるレーヴ皇帝に、口出しなどできないだろう。これでは恥の上塗りでしかない。

「言いたいこととはそれだけか?」

僕と同じことを思ったのか、レーヴ皇帝の冷たい視線が近衛団長へと向けられる。
抑揚のない静かな声も相まって、人間味を感じさせない造形美は、ぞっとするような威圧感があった。

「い、いえ。それだけではありません。まず、舞踏会の件につきましては、私からも王子殿下にお詫び申し上げます。大変恐ろしい思いをさせてしまい申し訳ございません」

うん、本当はお前が真っ先に口にすることは、その事についてだ。
僕はただ笑うだけに留め、返事をすることはなかった。
そんな僕の様子を見て、これならば丸め込めると思ったのか。
薄茶色の前髪から覗く瞳に嘲るような光が見える。


「しかし、一つだけ釈明の機会をいただきたくございます」

ほら来たぞ~。
鈍感そうな僕ならば、手軽くいなせると勘違いした男の言い訳だ。
ここまで来ると楽しくなってくる。いったいどんなものであるのか、内心わくわくしていた。

「釈明とは?」

僕が小首を傾げて、不思議そうに目を瞬かせる。
すると、近衛団長は水を得た魚のように、活気に満ちた声音で言った。

「まず、当日の警護についてですが何一つ不備はございませんでした。配置に抜かりはなかったのです」
「……」

え、何を言ってるのこの人。
僕が襲われた時点で不備があるんだよ? 連れ込まれちゃった時点でアウトなんだよ?
大丈夫か、この人。
堂々としているけど、本物の馬鹿なのだろうか。

「元々、舞踏会といえば若い貴族のご子息やご令嬢方の見合いの場でありましょう。ですから、各貴族の関係も考慮し、人の入りが多い位置には相応しい者を配置しておりました。ですが王子殿下に関しては、を理解した上で会場を後にしたのだと、勘違いをした者が居たことによるだったのです」
「……」

僕は思わず両陛下やその後ろに立っている宰相に向かい、憐憫を抱かずには居られなかった。
可哀想に、苦労するねえ~。と視線を投げかければ、頭痛でもするのか、三人のこめかみがピクピクと痙攣している。

きっと先帝の時代に、家の権力で近衛団長にまで上り詰めた男なのだろう。
なんでも力で揉み消せると思っているようだが、今回の事件は帝国内部のみでは片付かないと、なぜ気づかないのだろうか。

そしてなにより僕の隣で、静かに微笑んでいるスーちゃんから、殺気が放たれていて酷いことになっていた。

まあとにかく落ち着いてと、そう言うようにスーちゃんの拳へと手を置く。
僕の好きにしていいとのことだから、ちょっとばかし近衛団長と遊ぼうじゃないか。

「……そうなのですね。だから、皆さん特に不思議に思うこともなく、あの日は伯爵をお止めにならなかったのですか」
「ええ! そうなのです。王子殿下には酷く恐ろしい思いをさせてしまい申し訳ございません。ですが、そういった事情もあり、当日の警備に不備があったわけではないのです」

遠回しに、舞踏会では羽目を外す貴族がわんさか出るので、僕もその一人だと思っていたと言うのだ。

僕は、悲しげに眉を下げると、頬に手を当てて憐れむように呟く。


「それを考えると、とても可哀想でなりません」
「思いやっていただけるとは……。王子殿下は懐が広くいらっしゃるのですな」
「ええ。だって、の責任であるのか分からないのですから、を処罰しなければなりませんし」
「……へ、しょ、処罰ですか? いえ、ですから部下たちはただ」
「まあ! もしやすべての責任は己にあると言うのですか? 部下たちを庇われるなんて、近衛団長殿は大変人ができていらっしゃるのですね。……わかりました、でしたら僕もその思いに応えて、責任は全て貴方の処罰のみで許しましょうっ!」
「は……、な、処罰……!?」
しおりを挟む
感想 198

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。