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三章

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 宰相がアダムの介抱をしているのは、こうなった原因が自分にあると思っているからだ。
 アダムが目を覚ましてすぐに、怪しい子供に会わなかったかと尋ねられた。
 ふと脳裏に浮かんだのは、ローブを纏った不思議な中性的な少年と、意味のわからない台詞。

『別になんもしないよ。僕・は・ね・。ただ確かめに来ただけだから』

 ひゅっ、と思わず息が詰まる。あの時かけられた言葉の意味を、今になり理解した。
 思い当たる節があると気づいた宰相は、帝都に持ちこまれた薬草が、一つも手に入らなかったと告げた。
 誰かに買い取られていたり、残っていても腐っていて使い物にならなかったらしい。まるで何者かが態と引き起こしたかのように、様々な偶然が重なっていた。
 そんなネチネチとした嫌がらせをするのは、魔女に違いないと宰相は苦々しげに話していた。
 自分に靡かないことに癇癪をおこして、宰相を呪うぐらいには執着していたのだ。きっと、アダムの噂を耳にして、面白くなくてからかいに来たのだろう。
 魔女にとっては悪戯でも、アダムにとっては命の危険があった。宰相だってそうだ。告白を断ったら獣になる呪いにかけられるなんて、あんまりすぎる。そんな歩く厄災を、事前に払える人なんて居ないだろう。
 だから別に魔女に関しては、お互いに被害者だと思っているのだが。
 宰相は未だに自分のせいだと、自責の念に苛まれているようだった。

「も、もう十分です」

 お皿にたんまりと乗せられた果実を見る。宰相も一緒に食べれたらいいのだが、この果実を食べれるのはアダムだけなのだそうだ。
 どうやら、魔の森に実るものは魔獣たちに歓迎された者にしか食べれないらしい。お腹いっぱいに食べた果実も、アダムにとっては良薬だが、それ以外の者には猛毒になる。
 往診にくる医療士の話では、王宮に保存されている書物に、「秘宝の果実」として載っているそうだ。一粒で平民の一軒家が買えてしまうらしい。話を聞いたアダムは戦いた。胃の中に収まったものを、どうやって吐き出すか考えたほど。
 そんな高価なものを口にしていて罰されないかと青ざめたが、認められた者しか食べられないのだから、どうすることもないと言われた。
 アダムにとってはいまいち分からないが、普通の者からすれば、魔の森に入ることは自殺と同義であるらしい。なのに宰相はアダムのために果敢にも足を踏み入れた。そして、こうして果実を持ってきてくれたのだ。
 もうそれだけで十分すぎるぐらいの償いをしたと思う。いやそもそも、アダムは宰相のせいとは思っても居ないのだけれど……。
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