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二章
05
しおりを挟む夜の帳が降りる頃。
イサクは服を脱ぎ捨てる。そして、窓の外から覗く景色が深い暗闇に包まれると、ざわざわと体が疼いた。
疼きは脳天から足の爪先にまで駆け走り、イサクはぐるるっと喉を鳴らす。
稲妻のような刺激に頭を振るうと、先ほどまで見えていた景色が遠のいた。
人型の姿でいる時よりも遥かに低い視線。
そして、立派な前脚と後脚の四本で地面に立つ。その場で軽くたしたしとステップを踏んだイサクは、満足気に尻尾を振った。
『ふん。今夜こそは絶対にあのオメガの元には行かないぞ』
自分の胸に強く強く誓うと、イサクは寝床へと移動する。
宰相の執務室と隣接した部屋に、イサクの自室は用意されていた。その理由は説明せずとも察するだろう。城内を狼の魔物が彷徨いているのは外聞が悪いからだ。
イサクはてっ、てっ、と軽やかな足取りで進む。十年以上の付き合いだ。慣れたものである。
そして、ふかふかの丸いクッションに乗り上がると寝床を整える。
『ここが気に食わないな』
イサクはガウっと吠えて、銀色の瞳をクッションに向ける。
そして呼吸を整えると、前脚を使い全力でここ掘れワンワンを繰り出した。
タシタシタシタシッ。イサクの攻撃は容赦ない。
柔らかなシルクよりも綿の方が好きだ。何度も攻撃を受けてきた特注のクッションはボロボロ。
それでも、自分の匂いが染み込んだ寝床は大変心地がいい。
ようやく納得のいく寝床作りを終えたイサクは、くるくるとその場で旋回して丸くなった。
自慢の尻尾は抱え込むようにして、鼻先にもってくる。
まだ夜になったばかりだが、今日は寝てしまうつもりだ。だって、起きていたらまたしてもあのオメガのところへ行ってしまうかもしれない。
『これで大丈夫だろう』
満足そうに、ふんっと大きな鼻息を吹き出してイサクは瞼を閉じた。
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