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一章
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しおりを挟む続けて最低な言葉を重ねる。
「コブ付きのお前を本気で愛するつもりは無いが、愛というものには興味があるから相手をしろ」
「は?」
「ちょうど、本気になられるのは困ると考えていたところだ。だが、お前は俺に興味が無い。俺もだ。疑似恋愛をするにはいい条件だろ」
意味のわからない台詞を、なんとか噛み砕いて理解する。
そして、ぶつんと、今度こそ頭の奥でブチ切れた。
「あんたらアルファって本当に、クソ野郎ばっかりだ」
体はふつふつと煮えている。なのに、声音はとても冷たくて平坦だ。それがいっそうアダムの怒りをうかがわせる。
「どいつもこいつも偉そうでこっちの事なんて考えもしない」
「……俺とお前を捨てた男を同一視してるのか? ならば不愉快だ。俺はしっかりと対価を──」
「うるさいっ!」
ぐわっとこれまで我慢してきたものが爆発する。噴き上がる炎のように、瞼の裏側が真っ赤に染まる。
「同一視されたくない? 不愉快だ? だったらそう言われないためにアルファだという自覚を持て!」
不愉快だろうと、腹が立とうとも、アダムはずっと耐えてきた。
それはオメガである自分を誇りに思うからだ。
世の中は男女の差別だけでなく、バースまでも引き合いに出してきて差別する。
優れたアルファは何をしても評価されて、オメガはどんなに頑張っても、一蹴されて終わりだ。
諦めたくなることなんて腐るほどあった。やってられないと放りなげたくなることも。
だけど、アダムは「オメガ」なのだ。どんなに逃げても、目を瞑っても、その事実は変わらない。
そして、この世で一人しか居ない自分は、オメガでありサミーの親だ。
そんな自分が「オメガ」であることを否定して生きるのは嫌だった。
だから、己の性を受け入れて「オメガであるアダム」として、真剣に頑張って生きてきた。
「俺はオメガとして胸を張って生きてきた。無理だと言われていた傭兵として、仲間と肩並べて生き抜いてきた!」
そして今は料理人の補佐として頑張って、自分の居場所を手にしたのだ。
なのに、自分勝手なアルファの登場で呆気なく奪われる。
これまでは、「オメガとしてのアダム」を見てくれていた周りが、今じゃただの「オメガ」として見る。
アダムなんてどこにもいない。そこにいるのは、いつ発情するか分からない、淫らで傍迷惑な奴。
それがどんなに悔しいか。
アルファの宰相には分かりっこないだろう。
「俺に同一視されたくないなら、誇りをもち一人のアルファとして振舞ったらどうだ」
「……」
「俺はこれからも、オメガとしての自分をめいいっぱいに生きていく」
その邪魔をするのは、例え宰相だろうとアルファだろうと許さない。
アダムはつり上がった瞳で宰相を睨みつける。
そして、玄関扉に向かい指をさした。
「俺とサミーの前に二度とその面見せんな」
苛烈な怒りがすっと引いていく。
宰相が居なくなった部屋のなかには、アダムの怒りが熱のように漂っていた。
「……やばい」
頭が冷えてようやく自分のした事を理解する。どんなに優しい国でも、ここまで啖呵をきったのだ。アダムが罰を受けるのは確実だ。
折檻で済めばまだいい。だが、拷問や牢獄に放り込まれたらサミーはどうする。
アダムは棚の奥にしまわれている美しい模様が描かれている箱を取り出した。これはからくりが仕掛けられていて、簡単に開けることはできない。
いざとなったら、この箱と一緒にサミーを連れて逃げよう。
獣達に事情を話したら、逃げる手伝いをしてくれやしないだろうか。
使えるものはなんだって利用する。
そうしてまでサミーを守ってきたのに。
「本当に、馬鹿だ」
こんなことでサミーから平穏を奪ってしまうかもしれない。
耐えて笑って無理だと伝えればよかったのに。
あの時だけはどうしてか我慢ができなかった。
宰相の言葉から「本気で愛するつもりはない」と言われた時、頭の中が真っ赤に染った。
心臓がぐちゃぐちゃに踏みつけられたように痛んだ。
「……っ」
じわじわと熱くなる瞼を閉じて、アダムは強く強く歯を噛み締めた。
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