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僕は思いっきりドアを開けた。薄暗い部屋に廊下の光が入り込み、うっすらと部屋が明るくなる。彼女は予想外の僕の訪問におどろいたのか、持っていたカッターナイフを床に落とし、そして泣き始めた。僕は彼女のもとへ行った。泣いている彼女をただ見ることはできなかった。なにかしてあげたい、そう思って僕は彼女の肩に寄り添った。
僕らは直接は話せない。僕はスマホに手を伸ばしたが、すぐに引っ込めた。今、スマホなんかで話すところじゃない。何かもっと、心情が表せられるものが…周りを見渡すと、机に一冊のノートを見つけた。直筆なら、きっと電子機器なんかよりずっと想いを伝えられる、そう思ってまだ泣いている彼女の横で、そのノートを開いた。
そのノートは日記だった。日にちは九月一日。彼女が転入してきた日だ。
「九月一日
今度こそ、馴染みたい。前の学校もやっぱり馴染めなかった。これもきっと不甲斐ない私のせい。これ以上お母さんの心配をかけたくない。これ以上負担を増やさないであげたい。これも全部、私がしっかりすれば、果たせる。しっかりしなければ。」
整然とした文章に綺麗な字。彼女が書いたものに間違いなさそうだ。僕は意識は夏海に向けながらも、それを読み進めた。
「九月四日
やっぱり学校を変えても、みんな私に痛いことをする。どこへ行っても変わらないのだから、きっと原因は私にあるんだろう。でも、今までと違うのは、助けてくれた人がいた。灰崎翔くん。翔くんが私の心配をしてくれた。その晩も翔くんとやりとりをした。初めてしんじてもいい人ができた気がする。きっと、明日も会える。こんなに学校に前向きになったのっていつぶりだろう。もう、しょうくんのことは『友達』って呼んでもいいのかな?」
「九月十二日
今日は初めて友達と一緒に帰った。やりとりに夢中になって車に轢かれそうになった私を助けてくれた。電車の乗り方も分からない私に、切符を買ってくれた。私のせいで電車に乗り遅れたのに、嫌な顔一つしなかった。翔くんだけは私のことをしっかり一人の人間として見てくれている気がした。挙げればキリがないぐらい楽しかった。明日、翔くんを誘って、浮いた切符代で一緒にスイーツでも買いに行きたいな。」
ここまで、なんと順調だったのだろう。彼女にそんな過去があって、実はこんなふうに僕のことを思ってくれていた。でも、ページを捲ると、そこにあったのはもはや別人が書いたかのような状態だった。
「九月十三日
私は思い上がってた。やっぱり、私は私。いくら変わろうとしても、その醜さは変えられなかった。勝手に信じていた翔くんに蹴られ、私は悔しかった。淋しかった。もし耳が聞こえていれば、こんな仕打ちは受けなかったのかな。惨めだ。こんな耳、こんな役にも立たない耳なんてそぎ落としてしまいたい。耳が、憎い。」
その日まで丁寧に書かれていた日記はこの日だけはぐしゃぐしゃだった。最後に辛い、悔しいと殴り書きされていた。
僕らは直接は話せない。僕はスマホに手を伸ばしたが、すぐに引っ込めた。今、スマホなんかで話すところじゃない。何かもっと、心情が表せられるものが…周りを見渡すと、机に一冊のノートを見つけた。直筆なら、きっと電子機器なんかよりずっと想いを伝えられる、そう思ってまだ泣いている彼女の横で、そのノートを開いた。
そのノートは日記だった。日にちは九月一日。彼女が転入してきた日だ。
「九月一日
今度こそ、馴染みたい。前の学校もやっぱり馴染めなかった。これもきっと不甲斐ない私のせい。これ以上お母さんの心配をかけたくない。これ以上負担を増やさないであげたい。これも全部、私がしっかりすれば、果たせる。しっかりしなければ。」
整然とした文章に綺麗な字。彼女が書いたものに間違いなさそうだ。僕は意識は夏海に向けながらも、それを読み進めた。
「九月四日
やっぱり学校を変えても、みんな私に痛いことをする。どこへ行っても変わらないのだから、きっと原因は私にあるんだろう。でも、今までと違うのは、助けてくれた人がいた。灰崎翔くん。翔くんが私の心配をしてくれた。その晩も翔くんとやりとりをした。初めてしんじてもいい人ができた気がする。きっと、明日も会える。こんなに学校に前向きになったのっていつぶりだろう。もう、しょうくんのことは『友達』って呼んでもいいのかな?」
「九月十二日
今日は初めて友達と一緒に帰った。やりとりに夢中になって車に轢かれそうになった私を助けてくれた。電車の乗り方も分からない私に、切符を買ってくれた。私のせいで電車に乗り遅れたのに、嫌な顔一つしなかった。翔くんだけは私のことをしっかり一人の人間として見てくれている気がした。挙げればキリがないぐらい楽しかった。明日、翔くんを誘って、浮いた切符代で一緒にスイーツでも買いに行きたいな。」
ここまで、なんと順調だったのだろう。彼女にそんな過去があって、実はこんなふうに僕のことを思ってくれていた。でも、ページを捲ると、そこにあったのはもはや別人が書いたかのような状態だった。
「九月十三日
私は思い上がってた。やっぱり、私は私。いくら変わろうとしても、その醜さは変えられなかった。勝手に信じていた翔くんに蹴られ、私は悔しかった。淋しかった。もし耳が聞こえていれば、こんな仕打ちは受けなかったのかな。惨めだ。こんな耳、こんな役にも立たない耳なんてそぎ落としてしまいたい。耳が、憎い。」
その日まで丁寧に書かれていた日記はこの日だけはぐしゃぐしゃだった。最後に辛い、悔しいと殴り書きされていた。
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