8 / 18
8
しおりを挟む
終礼が終わったら、ダッシュで帰ろうと思っていた。呼ばれる前に帰ってしまえば、何の憂き目にも遭わない、って思っていたから。それは結果的に夏海を置き去りにすることになる。でもやはり、自分のことばかり考えていた。しかし、終礼が終わってダッシュで帰ろうとした僕を呼び止めたのは、奇しくも夏海だった。
『この本、すっごく面白かった!貸してくれて本当にありがとう!』
そう送って僕に昨日貸した本を返した。さっきまで夏海のこと、悪く言えば見捨てるつもりだったくせに、彼女の気さくな言動を目の当たりにして、無碍にはできなかった。結局、彼女とのやりとりに付き合った結果、僕は逃げる機会を失った。
やりとりを終え、いざ帰ろうとすると、後ろから呼ぶ声が聞こえた。1番聞きたくなかった呼び声。僕は聞こえてていないふりをしてそのまま進んだが、走ってきた向こうに追いつかれてしまった。
「おい、ちょっとこっちに来いよ」
とうとうこの時が来てしまった。僕が1番恐れていた事態に今なりつつある。内心嫌がりながら、しかし逃げたら何をされるかわからないという恐怖心に束縛され、僕は泣く泣く彼について行った。場所はもちろん、いつもの場所。倉庫はいつもより広く、暗く感じた。つけば、いつものメンバーに加えて、普段大人しそうな人もいた。そして奥で地べたに座らされているのは、もちろん夏海だ。暗くて、あまりよく見えなかった。目が合わなかったし、きっと彼女も僕のことは認識出来てなかったんだと思う。
「昨日、俺、見ちゃったんだよね」
「いじめられてる女の子助ける俺かっこいい~ってか?」
周りの女子たちが笑い出す。
「違う、そんなんじゃ…」
「そうか。違うんだな」
素直にわかってくれたのかと思ったが、そんなのではなかった。
「それじゃあ、俺たちの『遊び』にも付き合ってくれるよな?だって、何の関係もないんだろ?」
そう言って、そいつは一発彼女の腹部にに蹴りを入れた。顔を歪ませて「ううぅ」と苦しそうに喘ぎながらお腹を押さえた。それを見て周りの奴らが笑う。狂気だ。みんな狂ってる。ここにいるみんな同じ表情をしていた。中学校時代、僕をいじめてきた奴と同じ表情。苦しむ彼女を見て、僕も胸が苦しくなった。「やめろ」の一言でも言えばいいのに、僕にその勇気がなかった。その不甲斐なさが、彼女や自分自身までもをどん底まで落とすことになってしまう。
「おい。灰崎。お前もやれ」
そう言ってあいつは僕を夏海の前に引っ張った。まだ痛そうにしている彼女を目の当たりにして、僕は心底辛かった。でも、あいつは、僕に、そんな彼女を、痛めつけるように、言ったんだ。やはり、いくら自分の立場がかかっていても、夏海を蹴ることなんかできなかった。僕は彼女の前にたちすくんでしまった。すると、後ろから悪魔の囁きが聞こえた。
「ん?できないのか?早くやれよ。それとも、お前はカッコつけてこいつを庇うのか?」
これは蹴らねば僕がいじめられるという暗示だ。蹴らねば、僕はまたあの地獄の中学校時代に逆戻り。そんな恐怖が、勝ってしまった。ふっと下を見ると、彼女と目が合ってしまった。泣きそうな目でこちらを見ている。もう、僕にはどうしていいかわからない。どちらを選んでも、地獄。もう、何が何だかわからない。
僕はもうヤケクソになって目を瞑ったまま彼女に一発蹴ってしまった。
『この本、すっごく面白かった!貸してくれて本当にありがとう!』
そう送って僕に昨日貸した本を返した。さっきまで夏海のこと、悪く言えば見捨てるつもりだったくせに、彼女の気さくな言動を目の当たりにして、無碍にはできなかった。結局、彼女とのやりとりに付き合った結果、僕は逃げる機会を失った。
やりとりを終え、いざ帰ろうとすると、後ろから呼ぶ声が聞こえた。1番聞きたくなかった呼び声。僕は聞こえてていないふりをしてそのまま進んだが、走ってきた向こうに追いつかれてしまった。
「おい、ちょっとこっちに来いよ」
とうとうこの時が来てしまった。僕が1番恐れていた事態に今なりつつある。内心嫌がりながら、しかし逃げたら何をされるかわからないという恐怖心に束縛され、僕は泣く泣く彼について行った。場所はもちろん、いつもの場所。倉庫はいつもより広く、暗く感じた。つけば、いつものメンバーに加えて、普段大人しそうな人もいた。そして奥で地べたに座らされているのは、もちろん夏海だ。暗くて、あまりよく見えなかった。目が合わなかったし、きっと彼女も僕のことは認識出来てなかったんだと思う。
「昨日、俺、見ちゃったんだよね」
「いじめられてる女の子助ける俺かっこいい~ってか?」
周りの女子たちが笑い出す。
「違う、そんなんじゃ…」
「そうか。違うんだな」
素直にわかってくれたのかと思ったが、そんなのではなかった。
「それじゃあ、俺たちの『遊び』にも付き合ってくれるよな?だって、何の関係もないんだろ?」
そう言って、そいつは一発彼女の腹部にに蹴りを入れた。顔を歪ませて「ううぅ」と苦しそうに喘ぎながらお腹を押さえた。それを見て周りの奴らが笑う。狂気だ。みんな狂ってる。ここにいるみんな同じ表情をしていた。中学校時代、僕をいじめてきた奴と同じ表情。苦しむ彼女を見て、僕も胸が苦しくなった。「やめろ」の一言でも言えばいいのに、僕にその勇気がなかった。その不甲斐なさが、彼女や自分自身までもをどん底まで落とすことになってしまう。
「おい。灰崎。お前もやれ」
そう言ってあいつは僕を夏海の前に引っ張った。まだ痛そうにしている彼女を目の当たりにして、僕は心底辛かった。でも、あいつは、僕に、そんな彼女を、痛めつけるように、言ったんだ。やはり、いくら自分の立場がかかっていても、夏海を蹴ることなんかできなかった。僕は彼女の前にたちすくんでしまった。すると、後ろから悪魔の囁きが聞こえた。
「ん?できないのか?早くやれよ。それとも、お前はカッコつけてこいつを庇うのか?」
これは蹴らねば僕がいじめられるという暗示だ。蹴らねば、僕はまたあの地獄の中学校時代に逆戻り。そんな恐怖が、勝ってしまった。ふっと下を見ると、彼女と目が合ってしまった。泣きそうな目でこちらを見ている。もう、僕にはどうしていいかわからない。どちらを選んでも、地獄。もう、何が何だかわからない。
僕はもうヤケクソになって目を瞑ったまま彼女に一発蹴ってしまった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
乙男女じぇねれーしょん
ムラハチ
青春
見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。
小説家になろうは現在休止中。
深海の星空
柴野日向
青春
「あなたが、少しでも笑っていてくれるなら、ぼくはもう、何もいらないんです」
ひねくれた孤高の少女と、真面目すぎる新聞配達の少年は、深い海の底で出会った。誰にも言えない秘密を抱え、塞がらない傷を見せ合い、ただ求めるのは、歩む深海に差し込む光。
少しずつ縮まる距離の中、明らかになるのは、少女の最も嫌う人間と、望まれなかった少年との残酷な繋がり。
やがて立ち塞がる絶望に、一縷の希望を見出す二人は、再び手を繋ぐことができるのか。
世界の片隅で、小さな幸福へと手を伸ばす、少年少女の物語。
居候高校生、主夫になる。〜娘3人は最強番長でした〜
蓮田ユーマ
青春
父親が起こした会社での致命的なミスにより、責任と借金を負い、もう育てていくことが出来ないと告白された。
宮下楓太は父親の友人の八月朔日真奈美の家に居候することに。
八月朔日家には地元でも有名らしい3人の美人姉妹がいた……だが、有名な理由は想像とはまったく違うものだった。
愛花、アキラ、叶。
3人は、それぞれが通う学校で番長として君臨している、ヤンキー娘たちだった。
※小説家になろうに投稿していて、アルファポリス様でも投稿することにしました。
小説家になろうにてジャンル別日間6位、週間9位を頂きました。
ペア
koikoiSS
青春
中学生の桜庭瞬(さくらばしゅん)は所属する強豪サッカー部でエースとして活躍していた。
しかし中学最後の大会で「負けたら終わり」というプレッシャーに圧し潰され、チャンスをことごとく外してしまいチームも敗北。チームメイトからは「お前のせいで負けた」と言われ、その試合がトラウマとなり高校でサッカーを続けることを断念した。
高校入学式の日の朝、瞬は目覚まし時計の電池切れという災難で寝坊してしまい学校まで全力疾走することになる。すると同じく遅刻をしかけて走ってきた瀬尾春人(せおはると)(ハル)と遭遇し、学校まで競争する羽目に。その出来事がきっかけでハルとはすぐに仲よくなり、ハルの誘いもあって瞬はテニス部へ入部することになる。そんなハルは練習初日に、「なにがなんでも全国大会へ行きます」と監督の前で豪語する。というのもハルにはある〝約束〟があった。
友との絆、好きなことへ注ぐ情熱、甘酸っぱい恋。青春の全てが詰まった高校3年間が、今、始まる。
※他サイトでも掲載しております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
想い出キャンディの作り方
花梨
青春
学校に居場所がない。
夏休みになっても、友達と遊びにいくこともない。
中一の梨緒子は、ひとりで街を散策することにした。ひとりでも、楽しい夏休みにできるもん。
そんな中、今は使われていない高原のホテルで出会った瑠々という少女。
小学六年生と思えぬ雰囲気と、下僕のようにお世話をする淳悟という青年の不思議な関係に、梨緒子は興味を持つ。
ふたりと接していくうちに、瑠々の秘密を知ることとなり……。
はじめから「別れ」が定められた少女たちのひと夏の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる