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耳が聞こえないあなたは、きっと告白の言葉を聞くことはできない。耳が聞こえないあなたは、きっと告白の言葉が言えない。でも、耳が聞こえないあなたでも、きっと、愛は伝えられる。今、こうしてあなたと意思疏通ができるのも、決してテレパシーなんかじゃない。
本当に心を通わせた人間の間に、言葉なんてものはいらないんだ。
高校一年生の夏休みのあと。クラスが久しぶりに会う友達同士で騒がしくなている頃、僕は特に友達とかもいなかったから、ただ一人で本を読んでいた。ある人は友達と夏の思い出を語る。またある人は終わっていない夏休みの宿題を急いで写している。そんな喧騒は僕にはどうでも良く、ただ、昨日買った小説を読む。
ガラガラ、とドアを開けて担任の先生が入ってきた。それと同時に始業のチャイムが鳴った。もう幾度と聞いてきたこのチャイムの音を聞いて、僕はまた新学期か、と憂鬱…ではないが、何か気だるさは感じた。
本をカバンに仕舞って、号令の合図で立ち上がり、軽く頭を下げる。また座っては、カバンからさっき読んでいた本を取り出して、再び読み始めた。正直、担任の話よりも小説のほが楽しいし、よっぽど有意義だ。
でも、全く話を聞いていたわけではない。一応、耳だけは先生に傾けていた。何か重要なことは聞き逃すまい、と。
「今日は、クラスの転入生を紹介します」
そう聞こえて、僕は本に栞を挟んで前を向いた。ガラリとドアが開いて、入ってきたのは幼気な表情をした女子だった。どこか怯えるような、その目でぐるりと教室を見回していた。
「今日からこのクラスに入る川井夏海さんです」
と言われたら、普通はよろしくなんて、一言は言うだろうに、彼女は一言も発さなかった。でも、彼女は拳を鼻に当て、手を開きながら頭を下げた。
「夏海さんは耳が不自由だから、皆さん何かあったら手伝ってあげてください」
あれは手話だ。『よろしくお願いします』という意味だったらしい。彼女の席は僕の横になった。僕は目を合わせただけで特に何もしなかった。挨拶ぐらいはしたかったが、僕にはそれを伝える手段がなかった。結局何もできずに再び持っていた本に目を落とした。彼女は確かに可愛かった。でも言葉も交わせないなら、仲良くもなれないと思っていた。
こうして僕は川井夏海と出会った。人生を変える出会いだった。
始業式は午前中に終わった。僕はいつものように一人で帰路についた。高校に入ってからも、誰かと帰った記憶なんてない。友達なんて、いらない。思い出すのも嫌になる、裏切りの中学校生活を送ったから。
僕は中学校の時にいじめられた。きっかけは些細なことだったと思う。きっと僕が気に食わなかった、ただそれだけだろう。別に深い意味なんてないと思う。三年間、毎日のように暴力、暴言を振るわれた。相談して、誰も助けにはなってくれなかった。担任は真面目に取り組んでくれなかったし、いじめてくる奴の親は知らない、の一点張り。学校という閉鎖的な社会で僕はただひたすらに淘汰され、卒業までただひたすら耐えた。やっと卒業することができて、ようやく新たな社会に踏み入ることができた。目立たなければ、いじめられることはないと思って、ひたすら無害で影の薄い人間であろうと思って、僕は友達も作らず、ただ一人、教室に居座るだけにした。
入学から半年経って、友達がいないのも、僕と今日転入した夏海ぐらいだろう。帰り、彼女が車に乗り込むのは見たが、特に声をかけることも、何か行動をすることはしなかった。耳の聞こえない人に露骨に優しくすれば、きっと目立ってしまうではないか。もう、目立っていじめられるのは嫌だ。とにかく、もう平穏に過ごしたい。それが僕の唯一の願いだった。
本当に心を通わせた人間の間に、言葉なんてものはいらないんだ。
高校一年生の夏休みのあと。クラスが久しぶりに会う友達同士で騒がしくなている頃、僕は特に友達とかもいなかったから、ただ一人で本を読んでいた。ある人は友達と夏の思い出を語る。またある人は終わっていない夏休みの宿題を急いで写している。そんな喧騒は僕にはどうでも良く、ただ、昨日買った小説を読む。
ガラガラ、とドアを開けて担任の先生が入ってきた。それと同時に始業のチャイムが鳴った。もう幾度と聞いてきたこのチャイムの音を聞いて、僕はまた新学期か、と憂鬱…ではないが、何か気だるさは感じた。
本をカバンに仕舞って、号令の合図で立ち上がり、軽く頭を下げる。また座っては、カバンからさっき読んでいた本を取り出して、再び読み始めた。正直、担任の話よりも小説のほが楽しいし、よっぽど有意義だ。
でも、全く話を聞いていたわけではない。一応、耳だけは先生に傾けていた。何か重要なことは聞き逃すまい、と。
「今日は、クラスの転入生を紹介します」
そう聞こえて、僕は本に栞を挟んで前を向いた。ガラリとドアが開いて、入ってきたのは幼気な表情をした女子だった。どこか怯えるような、その目でぐるりと教室を見回していた。
「今日からこのクラスに入る川井夏海さんです」
と言われたら、普通はよろしくなんて、一言は言うだろうに、彼女は一言も発さなかった。でも、彼女は拳を鼻に当て、手を開きながら頭を下げた。
「夏海さんは耳が不自由だから、皆さん何かあったら手伝ってあげてください」
あれは手話だ。『よろしくお願いします』という意味だったらしい。彼女の席は僕の横になった。僕は目を合わせただけで特に何もしなかった。挨拶ぐらいはしたかったが、僕にはそれを伝える手段がなかった。結局何もできずに再び持っていた本に目を落とした。彼女は確かに可愛かった。でも言葉も交わせないなら、仲良くもなれないと思っていた。
こうして僕は川井夏海と出会った。人生を変える出会いだった。
始業式は午前中に終わった。僕はいつものように一人で帰路についた。高校に入ってからも、誰かと帰った記憶なんてない。友達なんて、いらない。思い出すのも嫌になる、裏切りの中学校生活を送ったから。
僕は中学校の時にいじめられた。きっかけは些細なことだったと思う。きっと僕が気に食わなかった、ただそれだけだろう。別に深い意味なんてないと思う。三年間、毎日のように暴力、暴言を振るわれた。相談して、誰も助けにはなってくれなかった。担任は真面目に取り組んでくれなかったし、いじめてくる奴の親は知らない、の一点張り。学校という閉鎖的な社会で僕はただひたすらに淘汰され、卒業までただひたすら耐えた。やっと卒業することができて、ようやく新たな社会に踏み入ることができた。目立たなければ、いじめられることはないと思って、ひたすら無害で影の薄い人間であろうと思って、僕は友達も作らず、ただ一人、教室に居座るだけにした。
入学から半年経って、友達がいないのも、僕と今日転入した夏海ぐらいだろう。帰り、彼女が車に乗り込むのは見たが、特に声をかけることも、何か行動をすることはしなかった。耳の聞こえない人に露骨に優しくすれば、きっと目立ってしまうではないか。もう、目立っていじめられるのは嫌だ。とにかく、もう平穏に過ごしたい。それが僕の唯一の願いだった。
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