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最終話 ありがとう
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カトリナさんたちは夕方、日が傾いた頃に帰ってしまった。私は車が森の中に消えて見えなくなるまで手を振って見送った。そして、すぐに自分の準備を始めた。
外のテーブルに食事とか蝋燭、合格祝いにもらった赤ワインとかも出した。色々準備をして、全部終わったのは午後七時過ぎだった。
二つの椅子、二つのディッシュ、二つのグラス。私はすべて二人分用意して、この晩を迎えた。
「乾杯」
と誰もいない森で小さく囁き、ワインを一口飲む。さすが高級品なだけあって葡萄の華やかな、でもどこか瀟洒とした優しい香りが口の中に広がる。
静かな森の中に風が抜ける音だけが響き渡る。ぼんやりと辺りを照らす蝋燭の火も、なかなかにいい雰囲気だった。
買ってきた一輪の青いバラを中央の瓶に挿した時のことだった。どこからか蛍が飛んできた。その蛍の光は淡い黄色で、どこか懐かしくて、そして温かかった。東方の国では、蛍は死んだ人の魂だという言い伝えがあるらしい。きっと科学的な根拠は一切ないだろう。でも、今は本当に母が来てくれたような感じがした。
「お母様…今までありがとうございます」
今まで育ててくれた感謝、素敵な出会いをさせてくれたことに感謝、私を守ろうとしてくれた感謝、そして…私の母でいてくれた感謝。
涙を流す私に温かい風が吹いた。もしこの風に色が合ったら、きっとこれは黄色い風だろう。その風は涙をそっと拭ってくれるように私を撫でた。
それはまるで母に抱きしめられた時のようだった。
外のテーブルに食事とか蝋燭、合格祝いにもらった赤ワインとかも出した。色々準備をして、全部終わったのは午後七時過ぎだった。
二つの椅子、二つのディッシュ、二つのグラス。私はすべて二人分用意して、この晩を迎えた。
「乾杯」
と誰もいない森で小さく囁き、ワインを一口飲む。さすが高級品なだけあって葡萄の華やかな、でもどこか瀟洒とした優しい香りが口の中に広がる。
静かな森の中に風が抜ける音だけが響き渡る。ぼんやりと辺りを照らす蝋燭の火も、なかなかにいい雰囲気だった。
買ってきた一輪の青いバラを中央の瓶に挿した時のことだった。どこからか蛍が飛んできた。その蛍の光は淡い黄色で、どこか懐かしくて、そして温かかった。東方の国では、蛍は死んだ人の魂だという言い伝えがあるらしい。きっと科学的な根拠は一切ないだろう。でも、今は本当に母が来てくれたような感じがした。
「お母様…今までありがとうございます」
今まで育ててくれた感謝、素敵な出会いをさせてくれたことに感謝、私を守ろうとしてくれた感謝、そして…私の母でいてくれた感謝。
涙を流す私に温かい風が吹いた。もしこの風に色が合ったら、きっとこれは黄色い風だろう。その風は涙をそっと拭ってくれるように私を撫でた。
それはまるで母に抱きしめられた時のようだった。
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